「雪村家は滅んだと聞いています。ですが、その子はその生き残りではないか。私はそう考えています」

千鶴からは特別強い鬼の力を感じるのだと、告げられた本人の困惑は増すばかりだ。

「そんな……だって、私は……」

「ううん、あなたは鬼なの。ごめんね…これは間違いないの」

確信に満ちた言葉に、広間は静まり返った。千鶴にも、幹部の皆にも、それぞれ思い当たることがあるのだろう。風間たちが千鶴を狙う理由。千鶴の、傷の治りの早さ。俯き黙ってしまった千鶴の手を、そっと握る。

「彼女が純血の鬼の子孫であれば、風間が求めるのも道理です。鬼の血筋が良い者同士が結ばれれば、より強い鬼の子が生まれるのですから」

「なるほど……嫁にする気か」

近藤さんの呟きに、小さく舌を打つ。つくづく面倒な野郎だ。

「風間は、必ず奪いに来るでしょう。今のところ、本気で仕掛けてきてはいないようですが、遊びがいつまで続くかはわかりません」

そうなった時、いかに新選組といえど、鬼を相手に千鶴を守りきれるとは思えないのだと、千ちゃんは言った。鬼の力の前では、新選組は無力だと。…そう言われて、黙っていられる面子ではない。

「なあ、千姫さんよ。無力ってのは言い過ぎなんじゃねぇか?」

「新八の言う通りだ。そいつはちっとばかし、俺たちを見くびり過ぎだぜ?」

新八、左之、続けて山南さん、土方さん、総司がそれぞれ自身の思うところを口にする。誰一人、千ちゃんの言葉を肯定する者はいない。そりゃそうだ。いくら人間と鬼に力の差があれど、あんな言い方をされたら男のプライドに傷がつく。……かく言うあたしも、負けず嫌いですから。

「お気持ちはよくわかりますが…実際にはそう簡単でないことはわかっているのでしょう?ですから、私たちに任せてください。私たちなら彼女を守れる可能性も高まります」

「ダメだよ、千ちゃん。確実に守れる保証があるならまだしも、可能性の話じゃ説得力に欠ける。それじゃ引けないよ、新選組も、あたしも」

「それよりも…部外者のあなたが、僕たち新選組の内情に口を出さないでくれるかな?」

千ちゃんの申し出を皆が口々に拒んだ。その言葉は一様に怒気をはらんでいる。
その中、腕組みして考え込んでいた近藤さんが顔を上げた。

「……雪村君。君自身はどう思うんだ?」

「わ、私は……まだ何とも…」

即答出来ず口ごもる千鶴に、近藤さんは苛立つ様子もなく、微笑む。

「ふむ、そうか。我々の前では何かと話しにくいかもしれないな。千姫さんと二人で話してくるといい」

「近藤さんっ、そいつは…!?」

反対したのは土方さんだけじゃなかった。近藤さん以外の皆が口々に異論を唱える。

「せめて誰か一人…麻倉君に立ち合ってもらうべきでしょう。あちらも君菊さんに来てもらえばいい」

「まあ、いいじゃないか」

先程までの殺伐とした空気は、すっかりなりをひそめてしまっていた。さすが近藤さん、と真っ先に気の抜けてしまったあたしは彼に同意する。

「そだね。いいんじゃない?二人で話しといでよ」

「麻倉、お前まで…」

「大丈夫。千ちゃんは千鶴の嫌がることはしないよ。心配することもない。ね、千鶴?」

「うん。お千ちゃんは悪い人じゃないから」

「ありがとう。クラちゃん、千鶴ちゃん」

優しく微笑んだ千ちゃんに頷きを返す。彼女の眼に、嘘はない。それだけで十分信用に足るとあたしは判断する。

「千鶴。新選組やあたしのことは二の次でいい。ちゃんと自分で、自分の意志で選ぶんだよ」

「……うん」

ありがとう。微笑み、千ちゃんと二人で自室に向かった千鶴の背中を見送った。




それから少しして、戻ってきた二人をあたしと幹部たち、君菊さんは迎える。千鶴の顔に迷いは見当たらない。

「結論は出たかな?」

近藤さんの問いは、あくまで穏やかな口調だ。

「これまで通り、よろしくお願いします」

千鶴が答えるより先に、一歩前に出た千ちゃんが、幹部たちに深々と頭を下げる。本当にいいのかと、不安そうにしている君菊さんに、今は千鶴の意志を優先しようと千ちゃんは頷いた。

「わかった。そういうことなら新選組が責任を持って預からせてもらおう」

近藤さんのその言葉で、堰を切ったように皆が千鶴の元に寄っていく。安堵したように笑っている皆に囲まれて、嬉しそうにした千鶴が頭を下げている。それを遠くから見守っていると、千ちゃんについと袖を引かれた。

「クラちゃん。千鶴ちゃんのこと、お願いね」

「ん。大丈夫、あたしの大好きな千鶴だもん、風間なんかにゃ絶対渡さないから」

「…うん」

「っていうか、あの野郎いっぺん八つ裂きにしてやらなきゃあたしの気が済まねぇ。頭領だなんて呼べないような辱めを受けさせてやるぜゲッゲッゲ」

「(あれ、私頼む相手間違えた?)」






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