真っ先に応じたのはあたしだ。次いで新八、左之、平助が刀を構え直す。勝手なことは許さないとうるさい伊東は、近藤さんが無理矢理部屋から連れ出してくれた。ありがたい。

「くくっ……そうです、血が欲しい。私の身体が血を欲しているのです」

機を狙う間に、山南さんが手にとった千鶴の血を口に含んだ。それを見た平助はもう許せないと叫び、左之や新八も険しく顔を歪める。それに同意する間もなく、あたしは自身の間合いへと足を踏み込もうとしたが、唐突に肩を掴まれて止めざるを得なくなった。

「…土方さん?」

何事かと振り返れば、土方さんが難しい顔をしてあたしの肩から手を引いた。その目はあたしではなく、山南さんに真っ直ぐ向けられている。
彼と同じように山南さんを見ると、彼の様子がおかしいことに気付いた。また苦しげに声を上げたかと思えば、白い髪と赤い瞳は元の色を取り戻していく。その眼にあるのは理性の光。

「……ん……んんん……わ、私は一体…?」

山南さんが正気を取り戻したのだ。解放された千鶴が嬉しそうに彼の名を呼ぶ。幹部たちは山南さんと斬り合わずに済んだことに安堵するも、何故元の山南さんに戻れたのかが誰にもわからなかった。

(血に狂っていた時の山南さんと元に戻った山南さん……相違点があるとすれば…)

顎に手をあてて思案しようとしたあたしは、しかし軽く頭を振って顔を上げる。今はまだやることがある。

「……考えるのは後にして、とにかく後始末だ」

未だに転がっている死体を片付けて、部屋を掃除しなければならない。土方さんの指示を受けて、その場の全員が動き出す。その様子を見届けてから、土方さんはあたしのほうに向き直った。

「お前は千鶴を頼む」

「うん。とりあえず今夜はあたしの部屋を使わせるよ」

あたしは土方さんの頷きを見るや否や、掃除の手伝いを始めてしまいそうな千鶴の手をとって、少し強引に部屋の外へと連れ出した。千鶴は怪我人。さっさと休ませてやりたいけど、あんな血まみれになった部屋を使わせるわけにはいかない。

「ク、クラちゃ…」

「ダメ。却下」

「あの、私まだ何も言ってないんだけど…」

「手当ては自分で出来るから、とか言う気でしょ。ダメ。あたしだって手当てくらい出来るんだから、今回は任せなさいっていうか諦めな」

「でも、」

「千鶴」

反論を許さない。彼女の手を引いて歩き続けながら、殊更抑えた声で名を呼んだ。

「『異質』なことなんて、気にする必要ないから」

「ーーっ!!」

息を呑む気配を背後に感じる。それ以上あたしは何も言わず、また千鶴ももう嫌がる様子はなく、二人黙ったままあたしの自室へと向かった。






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