「……はぁ」
床に入ってからも、昼間の巡察での出来事を思い出して、私はなかなか眠れなかった。
特に、沖田さんの言葉。役立たずの子ども。
「…わかってたこと、だけど…」
新選組の幹部の人たち、いや、平隊士の人と比べたって、私はたいして役に立っていない。わかっていた。だけど、改めて指摘されると、なんだか悲しい。
違う世界から来たというのに、十分新選組の役に立っているクラちゃんがいるから、余計に自分の無力さに打ちのめされた気分になってしまう。
「明日から、もっと頑張ろう」
このままじゃ駄目。今日みたいに空回りして、足を引っ張るのは嫌だ。だから、判断力を磨かなくちゃ。
「とっさの状況判断が出来るように、まずはきちんと眠っておこうっと…」
そう決意して、目を閉じた瞬間だった。
「!?」
ガタン、と。部屋と廊下との境から激しい音がしたのだ。
慌てて床から半身を起こしてみると、襖がこちら側に倒れている。そして、部屋に入ってすぐのところに一人の隊士が立っていた。
「あの……何か?」
声をかけても返答はない。部屋が暗いために表情は窺えず、無言のままじっと立つ彼に不気味なものを感じた。
「何かご用ですか?」
「…血……血を寄越せ…」
「ーーっ!!」
その瞬間、悟った。
彼は『羅刹隊』の隊士だ。
「ひひひひ!血を寄越せぇっ!」
狂気に冒された表情、らんらんと光り輝く赤い瞳、真っ白な髪。『新選組』ならぬ『新撰組』の一員。それも、完全に自分を見失っている。
助けを呼ばなきゃ。我を忘れた羅刹を、私一人で抑えきれるわけがない。息を吸い込み、大きな声を発しようとしてーー寸前で抑え込んだ。
(駄目だ)
今ここで大声を出したら、羅刹を知らない平隊士にまでその存在を知らせることになってしまう。何か別の方法でこの場を切り抜けなければーー
「きゃああっ!!」
考えているうちに隙が出来ていたようだ。隊士の振るった刀の切っ先が、右の二の腕のあたりを斬り裂いていた。
裂けたところにじわっと血が滲み出る。慌てて左手で押さえるが、止まらない。みるみる指の間から溢れ出て、腕を伝って畳を染めていく。
「おおお、血だぁ……その血を俺に寄越せえぇ……」
狂った隊士はゆっくりと近付いてくる。私はたちまち壁際に追い詰められた。殺される。このままじゃ、殺されてしまう。
『妙な遠慮はやめなよ。頼るべき時は頼ればいいんだからさ』
その時、昼間沖田さんに言われた言葉を思い出した。
途端、心の中で何かが弾けた。
「誰かーー、助けてくださいっ!」