「グラタンドリアにオムライス〜ハンバーグはデミグラス〜パスタ茹でるよアルデンテ〜カレーに入れるのリンゴとハチミツもちろん愛情(はぁと)も忘れずに〜クラちゃん大好きロールキャベツ〜クリームシチューにビーフシチュー『(セリフ)シチュー考えた人は偉大だ!牛乳が入ってるのにあんなに美味い!byエド』ステーキはウェルダンミディアムレアどれがお好みですか〜やっぱりデザートも食べたい別腹だから無問題〜

……っと、お仕事預かりに来たよ、土方さーん」

「……お前か。西本願寺でもねぇのに経が聞こえてきやがったと思ったら」

「音痴とか言わないでよ、あたしが可哀想でしょ!?せっかく、あたし作詞作曲『洋食が恋しくてたまらない〜オーケストラリミックス〜』歌って、前回のシリアスの余韻ぶち壊してやろうと思ったのに!」

「そうかよ」

「……っていうか、土方さんの髪結いっていつも千鶴がしてんだね。知らなかった」

歌声の破壊力には定評のあるあたしがご機嫌に歌いながらやって来た副長室。入室許可は大抵事後承諾だから、室内にいた土方さんはさすがに諦めたようで文句も言わない。
文机に向かって何やら筆を走らせている土方さんは、事前に聞いていた「仕事が溜まってやがるんだ」という言葉通り忙しそうで、喧しく入室したあたしに目もくれようとせず、流すだけの返答をよこすだけだ。こういった光景は今までに何度も見てきたけど、今日は違った。座る土方さんの背後に立つ千鶴が、珍しく下ろされた彼の髪を結う作業の真っ最中だったのだ。

「えっ!?ち、違うの!これは、その、あのっ…」

「うわー見事なまでの動揺っぷりですね。大丈夫だよさすがにわかるよ土方さんって髪触られんの嫌がりそうだし」

「髪を結う手間さえ惜しむほど忙しくされてるから、私がお結いしましょうかって差し出がましいことを言ったからで…!」

「……千鶴。とりあえず落ち着け。で、さっさと結ってくれ」

あーあー顔真っ赤。からかう気満々でいたことを謝りたくなるほど動揺しまくってくれた千鶴は、あわあわしすぎて土方さんの髪から手を離してしまっている。また長い髪がばっさり落ちて、手元の書類(幕府宛ての密書ってとこかな)に向けられたままの目が眇められた。うわ、鬱陶しそう。絶対、髪結う一手間くらい惜しまないほうが楽だったろうに。

土方さんに声をかけられた千鶴は、はいっ!と焦った様子で返事をし、改めて髪結いに取りかかった。引っ張ってしまわないように気を遣いながら、髪を纏めては櫛を通す。……サラサラだなぁ……千鶴もなんか惚れ惚れしてるし。あんだけ長いってのに、ろくな手入れしてる印象もないのに、なんでこんなサラサラストレートなのかなぁ…なんかTSU●AKIみたい。男だけど。

「うわぁ、ヒく」

「麻倉、その隅の山四つ、全部今日中に済ませろ」

「ええぇぇ!?ウソ、なに四つって!?」

本来、山ひとつってのが組長一人分のお仕事。すなわち一番組組長の事実上の代理をしているあたしに当てられているのが、山ひとつ。で、この山を片付けるのでさえ、朝食の後に始めて夕飯までに終わるかどうか微妙な量なのだ。
事前に、今日は一番だけでなく三番の分も預かることを了承してたから、本来ならあたしのお仕事は山二つ。もちろん、期限は今日中なんて鬼畜ではなかった。
くっ、ちょっとヒロインにあるまじき顔と声出しただけなのに…意味もよくわかってないくせに、ホント悪意の察知が鋭すぎるんだから。……わー、見た感じコレ、一番三番八番雑務の四点セットだな……あの衛士二人組、送り盆で会ったあの時に仕留めちまえば良かった。

「横暴だ…職権乱用だ鬼畜生だ。地獄に堕ちて閻魔さまに舌引っこ抜かれて無間地獄で苦しみ続ければいいのに…」

「おい麻倉、二番五番六番十番どれがいい?好きなだけ追加していいぞ。選り取り見取りだ、良かったな」

「申し訳ございませんでした。せめて三日の猶予をください」

目すら合わない鬼副長殿の声の裏に見えた本気に、あたしは即土下座した。

「二日だ」

「うあぁぁん鬼ぃい!!」

あー!!もう屯所ごと燃やしたーい!!(乱心)

千鶴に髪を結い上げてもらった土方さんは、視界が広くなったとか言ってご機嫌だ。
おまけに、朝ご飯食べに来れてなかったからって心配されて、まだ忙しくされてるようならお昼はこちらにお持ちしましょうか?なんて聞かれて、いや昼には落ち着くから広間に食いに行く、なんて言って、なら土方さんのお好きなものを作ります、今日は私が食事当番なんです、なんて言われて、なら炊き合わせを頼む、最近のお前は料理の腕が上がっているようだから楽しみだ、なんて言って……ちっ、イチャコラしやがってこんちき。あたしなんか、未だ現実逃避気味に、山四つの書類の前で乙女座りして嘆いてるってのに。

「あ……あの、クラちゃん…お昼ご飯、お部屋に持って行こうか…?」

「……お願いします…もういっそおにぎりとかで構わないんで……」

「てめぇは飯食わなくても生きていけんだろ。食わず寝ずで働け。そうすりゃ二日で終わる量だ」

「アンタ究極に鬼だね!」

で、結局言われた通りに二日以内に仕事終わらせちゃって、出来んじゃねぇか、と同じ量をまた押し付けられ、盛大に後悔することになるあたしでした……






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