「ちょっと、総司!はやすぎるって!」

二年ちょっと過ごした西本願寺を後にし、三ヶ所目の屯所となる不動堂村屯所に移動することになったのは、夏を迎えた頃。
不動堂村。京の一角、西本願寺からだと南に位置する地に新設されたこの屯所は、新選組に出て行ってほしくてたまらない西本願寺が費用全額負担で建築してくれたものだ。
軽く外から眺めただけでも大きな屋敷だとわかるそこは、新選組の隊士みんなが入ってもまだまだ余裕がありそうな広さで、物見やぐらや馬屋まである。きっと大名屋敷と比べても、見劣りしないくらいに立派なつくり……なんだそうだ、千鶴が言うには。

というのも、あたしの左目は未だ包帯に塞がれていて、相変わらず視界はゼロ。そのご立派な屋敷も見えないわけだ。
左肩より一足先に、瞼にできた傷は完治したのだが、あの小姑・山崎烝が渋い顔をした後「……もう少し様子を見ましょうか」などとのたまって再度包帯を巻き直しやがったのだ。あたしの無茶防止だ、絶対。抗議してやろうと思ったら、そこに現れた親玉小姑・土方歳三がバッサリ命令をくだすった。もう数日、視界無しで生きろと。馬鹿野郎。

「もう少しゆっくり歩いてよ!」

「どうして?」

で、新しい屯所に荷物同然に運ばれ、門の前で放置されたあたしの手を掴んだのが、ご存知あたしの組長・沖田総司。
君の部屋まで連れて行ってあげるよ、といつもの悪戯っ子口調で言った彼に引っ張られて、不安いっぱいな道を行く。全く周りが見えないってのに、先を行く総司の歩みが速い速い。コンパスの差とかわかってんのか!…いや、わかっててやってるな、こいつは。

「平気でしょ?ちゃんと僕が手、繋いでてあげてるんだから。僕に任せてくれればいいんだよ」

「アンタに任せるのが怖いから言ってんだけど」

「あはは、ひどいなぁ。そんなこと言うと、そこに立ってる土方さんに、勢い余ってぶつけちゃうよ?ああ、でもクライサちゃん、人の気配はわかるんだっけ?なら避けられるよね」

「避けられるよ、普段の速度ならね!」

「うるせぇぞテメェら!!邪魔だから、とっとと部屋に引っ込め!!」

「「はーい」」

鬼副長に怒られたので、大人しく、仲良く手を繋いで部屋に向かいました。
いいね、新築の木の匂い。新しい畳の匂い。引っ越し作業でバタバタギャーギャー喧しいけど、まぁそれを除けば気分はいい。
君の部屋だよ、と言って総司に案内された部屋は、見えないけど、やっぱり……なんというか、新しい気配がしてちょっぴり浮き足立つ。早く包帯外して、見渡してみたいな。勝手に包帯取ると、なんでか山崎君が飛んできて説教をくれるから、我慢するけど。

「君の荷物は部屋の隅に置いてあるよ。荷解きは……まだ少し、後かな?」

「かなー。ま、ぼちぼちやるよ」

さして多くもないあたしの荷物を纏めてくれたのは千鶴だ。他の色んな仕事の手伝いの合間に、わざわざあたしの部屋に来て、いちいちあたしに声をかけながら荷物を纏めてくれたから、ほんと頭が上がらない。その荷解きまでやらせる、というのは流石に気が引けた。だったら包帯取れるの待つよね。

未だに繋いだままだった手を引かれ、多分部屋の中心あたりに座ったらしい総司の隣に腰を下ろす。漸く放された右手は、左手と一緒に手のひらを下にして畳の上に置いた。両足を伸ばし、うん、寛ぎ準備オッケー。

「さ。役立たずな僕らは、大人しく二人で遊んでましょうか」

「はい、先生!花札やりたいです!」

「札見えないでしょ?」

「勘で!!」

「それ面白いの?」

視界の自由はきかないし動き回ると土方さんと山崎君と千鶴がうるさいし、ちょっぴり文句も言いたくなる気もするけど……伊東一派が脱けて以来、忙しくてかまってやれなかった総司と、こうしてゆっくり過ごせることは、結構嬉しい。
休暇をもらったつもりで、仕事に復帰出来るくらい回復するまでは、総司のために時間を使ってやるのもいいかと思った。






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