『イーストシティ郊外、ポイント208Kの廃工場にて待つ。氷の錬金術師一人で来い。こちらには人質がいる』


「……元気な声明文だな」

文字が溢れんばかりに殴り書かれた紙を見た、最初の感想はそれだった。

いつもと同じ出勤時間に司令室に入れば、普段なら既に仕事を始めている面々が、何やら困惑した顔を突き合わせていた。……否、呆れ果てた表情だった、あれは。
何事かと問いかけたリオンに見せられたのがこの紙、所謂犯罪組織からの声明文だ。文末にグループ名のようなものが書かれているが、リオンには覚えがない。覚えがあるだろう少女は、隣で何食わぬ顔をして座っている。

「ずいぶん恨み買ってるみたいだけど、何したんだ?」

「えー?特に何もしてないと思うけど…」

「何もしてないのに名指しで呼び出しされるのか?」

「そんなこと聞かれても心当たりないし。一ヶ月くらい前にアジトごと潰しただけだよ」

「それだろ間違いなく」

なるほど、残党がリベンジマッチを望んでいるわけか。
そんな物騒な招待状をもらっておきながら、欠片も緊張感といったものが感じられない室内に、今までどれだけ同じようなことがあったのだろうと勝手に想像してみる。暴れ馬と名高い少女のことだ、両手の指できくかもあやしい。

「それで、どうする?」

ロイがクライサに問うが、その顔は返ってくる答えがわかりきっているものだ。案の定、少女は即答気味に頷いてみせる。

「もちろん行くよ。せっかくのご指名だからね」

「ま、人質とられてるんじゃ無視するわけにもいかないしなぁ」

「問題はそれだな。悪党ぶっ飛ばすだけならまだしも、人質の救出もってんじゃ一人では難しいだろ」

ハボック、ブレダの言葉に皆が頷く。人質を盾にクライサに復讐するつもりなのだから、一人でのこのこと出向くわけにはいかないだろう。それがいくらチートな強さを持つ国家錬金術師殿でも。

「相手の戦力も人質の人数もわからない。不確定要素が多すぎる」

「その不確定要素を何とかするのが私たちの仕事だろう」

呟いたリオンの声にセツナが応じた。確かに、敵を殲滅するのがクライサの役目なら、その助けをするのは自分たちの仕事に他ならない。

「早急に隊を組む。クライサ、セツナ、リオン。君たちは現場へ先行してくれ」

「了解。捕縛用の隊連れてくから先にぶっ潰しとけってことだね」

「人質救出の任務は我々の担当ということだな。任せておけ、嬢」

「……そこでなんでナチュラルに俺なんだ……」







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