イーストシティ郊外、ポイント208Kと分類される地区に建っている廃工場は、国によって運営されていたものだが数年前に放棄され、その後何度もテロリストグループ等のアジトにされてきた。そのたびに東方軍が制圧に赴いてきたため、建物の作りは完全に把握されている。
「そんな何度も悪党のアジトにされるなら、さっさと取り壊せばいいのに…」
「手続きが面倒だからって後回しにしてんだよ、うちの大佐殿」
「マスタングにも困ったものだな」
三階建ての工場の周りはある程度開けており、大型の車を数台停められるようになっている。それを更にこじんまりとした森が囲っており、木々の合間からリオンたち三人は工場の様子を窺っていた。森の中に敵がいないことは確認済みである。
工場に入るためには正面の大きな扉を潜らねばならず、入り口がそこしかないからか、見張りの姿はないようだった。こちらを向いた窓からも、そばに人の気配は窺えない。
「……なぁ、普通こういう工場って複数出入り口があるものじゃないのか?」
「あるよ、裏口。だけど前のグループを制圧した時に裏口の辺りを盛大に壊したから、瓦礫で埋まってんじゃないのかなぁ」
「なおのこと取り壊せよこの建物」
建物の前に停まっているのは、ジープが三台。そこから考えて、潜伏している人数はそう多くないだろう。逃走の際、全員が乗り切れない車では意味がないのだから。
人質もまた、市街のほうから攫ってきたと考えれば人数は限られる。車を何往復もさせたとは考えにくいし、何より人質の人数が多すぎては動きにくくなる。
「この様子なら打ち合わせ通りに行動出来そうだな、嬢」
「うん。あたしが大はしゃぎしてる間にセツ姉とリオンで人質救出するんだよね」
クライサが内部で派手に立ち回り、相手を引っ掻き回している間にリオンとセツナが人質を捜索・救出する。確かにそうなのだが、大はしゃぎって……いや、何も言うまい(もう慣れた)。
「っていうわけでリオン、はい、見取り図」
「持ってるならもっと早く渡せよ」
「いいじゃん、どうせ一瞬で覚えられるんだから」
「……そうだけどさ」
はい、と渡された紙に目を通し、その一瞬で完全に記憶してしまったからには、反論するのは難しい。
用済みとなった見取り図をクライサに返せば、彼女はそれを数回折ってから折り目に沿って破り始めた。何をするつもりだろうか。八枚の小さな紙になったそれに、立てた膝を机がわりに懐から出した万年筆を走らせる。サラサラとあっという間に描き終えたそれは、随分と簡素な錬成陣だった。
「姫、それは?」
氷の錬金術師たるクライサ・リミスクは、術の使用に錬成陣を必要としていないことをリオンは知っている。まさか単なる落書きのつもりではないだろうが、一体何の意味があるのだろうか。
「んー、大暴れの準備。ま、こっちのことは気にしないで、リオンは自分のやることに集中してたらいいよ」
「……だな。俺は姫やクラウン大佐みたいなチートキャラじゃないし」
「期待しているよ、アサヌマ少尉」
「……頑張ります……」
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