「大佐!」
すっかり慣れた司令部内を、歩く、歩く、歩く。
「大佐ー?どこにいるんですかー?」
探し人がいそうな部屋を覗いてもその姿は一向に見えず、もしや司令部にはいないんじゃないか、と諦めかけた時。
「……大佐!」
中庭の隅、視界の端ギリギリにとらえた姿に足を止める。同時に駆け出すと、相手もこちらに気付いたようだ。
「やあ、アサヌマ少尉」
「ったく…勤務時間中に姿を眩ます癖はなんとかしてくださいよ、クラウン大佐」
溜め息混じりにそう言えば、その人ーーセツナ・クラウン大佐は上機嫌そうに微笑んだ。
その人物が司令部にやってきたのは二週間前のことだ。
『中央所属のセツナ・クラウン大佐だ。今日から暫くの間、この東方司令部で働いてもらうことになる』
部下たちを自身の執務室に呼んだロイの隣に立っていたのは、見覚えのない人物だった。
毛先に赤いメッシュの入った長い銀髪をストレートに流し、こちらの面々を眺めるのは金色の双眸。
背丈はリオンと同じくらいだろうか。私服らしい、白いコートの裾が膝のあたりで揺れている。
『セツナ・クラウンだ。暫く世話になるよ』
ハスキーがかった落ち着いた声音。一瞬「あれ?」と思ったが、すかさずロイの声が滑り込む。
『初見で間違える者はかなり多いが、彼女は女性だ。失礼のないように』
『……。えぇぇぇえ!?』
声を上げて派手に驚いたのはハボックだ。彼と同じ表情になっていたのはブレダ、フュリー、ファルマン。ホークアイとクライサは以前から知っていたのだろう、いつもと同じ落ち着いた様子で整然と直立している。
ちなみにリオンは、どちらかと言えばホークアイらに近かった。もちろんセツナの性別など事前に知ることはなかったし、ハボックらと変わらず初見だ。だが、「へぇ、女なんだ」程度のリアクションで終わってしまったのは、クライサが「ドッキリの仕掛け甲斐がない」とぼやく所以である。
『で、なんでセツ姉がわざわざこっちに来るの?毎度お馴染み・大総統の思いつき?』
『相変わらず冴えてるな、嬢。暫く東部で羽を伸ばしてきなさい、なんてぬかしやがったんだ、あの狸は』
『(唐突に仲良いなこの二人)』
そのブラッドレイ大総統の気まぐれで中央に戻るまでは、とりあえず東方司令部で働くことになるらしい。その間、彼女の補佐役に任命されたのがリオンである。
どこかのサボリ魔と違い仕事はしっかりこなしてくれるのだが、リオンの頭を悩ませるのは彼女の失踪癖だ。自分の仕事が終わった途端に姿をくらましてしまうセツナを、追加の仕事やロイからの伝言が出来るたびに探して回るのがリオンの日課となりつつある。別段逃げる意図がないのはわかっているのだが、なにぶん手間なのだ。
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