鎧のどアップだった。

「リオン、大丈夫?なんだか魘されてたみたいだけど…」

……目覚めると、目の前にアルフォンスの顔面があった。正しくはこうだ。

「アル、近過ぎだって」

「え?あ、そうだよね!ごめん、リオン」

「ああ。くそ驚いた」

「なら少しくらい驚いた顔してくれよ」

終始眉一つ動かさなかったリオンの返答に、アルフォンスの後方に立っていたエドワードが苦笑した。
アルフォンスが指摘を受けて慌てて身を離し、ベッド脇の椅子に座り直すと、リオンは漸く体を起こすことが出来た。寝ていたほうがいいのでは、と心配する兄弟に、もう大丈夫だと即答する。

少しばかりぼんやりとする頭で現状を整理する。
狂気にとらわれたセツナの攻撃を受け、気を失った自分が次に目覚めたのはその翌日、今いる場所と同じく軍病院の一室だった。暫く休めとロイ直々に言いつけられ、ハボックらの見舞いを受け、怪我の治療に専念して暫く。そろそろ退院していい頃だと告げられたことで安堵したのか、うたた寝をしている間に兄弟が訪ねてきていたらしい。少しばかり気を抜き過ぎただろうか。

「んー、まずはおかえりかな。エドワード、アルフォンス」

「おう」

「うん、ただいま」

「で、ここに来たってことは、また大佐か姫が余計なこと言ったか」

予想はやはり正解のようで、余計なことなんて、とアルフォンスが怒ったように言う。いや、リオンとしても友人に会えるのは嬉しいし、見舞いに来てくれるのは素直に有り難い。
だから、余計なことと称した理由は別にある。エドワードの表情。

「聞いたんだろ」

「粗方聞いた。クライサから」

「そっか」

「で、お前が元気無いから何とかしてこいって、司令部追い出された」

目を瞬く。そして少し考えて、納得した。まぁそうか、いくらいつも通りに振る舞おうとしても、あんなことがあってはその行為は逆に不自然だ。心配させまいと思っていたが無駄な努力だったようだ。
しかし、そこでこの兄弟をよこしてくるあたり、彼女らしいと言うか何と言うか。とりあえず気遣いは素直に受け取っておこうと思う。

「無茶振りも甚だしいな、姫のやつ。何とかしてこいってもさ」

「しかも何とかしないうちは発つなって言いつけられてんだ。だからさっさと何とかされろ。オレたちの未来のために」

「ああ、受けて立つよ」

「……とても元気ない人との会話とは思えないんだけど」

さて、ということは、リオンが元気にならなければエドワードたちは次の目的地に向かうことも出来ないと。
ならばリオンのすべきことは一つなのだが、如何せん言うほど実行の易しくない事柄だ。無駄に元気そうに振る舞っても、普段通りのテンションがそうではないのだから意味は無い。リオンらしからぬ空元気だと言われるか、さらに心配される結果になりかねない。
そもそも、すでに普段通りのテンションで会話していたというのに『元気ない』と言われてしまえば、リオンにはもうどうしようもないのだ。

「まぁ実際、元気もなくなるような現場に居合わせちまったんだもんな…」

「うん……いくら軍人とはいえ、リオンってこの間まで普通の民間人だったんでしょ?なのに、いきなりそんな現場見ちゃったら…」

「あ……ああ、いや……」

自身らも同じ現場に立ったような面持ちで、沈んだ声音で語り出すエドワードたちにリオンが首を振る。

「そうじゃないんだ。えっと…それも確かにそうなんだけど、なんて言うか…現実味がなさすぎて、すとんと落ちてこないと言うか…」

「え?」

「じゃあ、何か別の理由があるってこと?リオンが元気なくなっちゃうような」

「ああ……まぁ、そんなたいそうなもんじゃないけど」

口には出さないが兄弟が先を促すような目を向けるので(もちろんアルフォンスはわからないが、雰囲気がそうっぽい)、若干言いよどみながらもリオンは続ける。
元気がない理由、というか、あの事件以来引きずっているものと言えば、セツナが人を斬った……殺した場面、では正直ない。確かに、人が死ぬ現場すら見たことのなかったリオンにとって、何人もの人間が殺された場面はかなりのショックを与えられるものだった。けれど、後になってまで引きずる光景だったかと問われれば、実は不思議とそうでもなかった。先に告げたように、現実味がなくて感情が受け止められなかったのかもしれない。

「なんて言うのかな……クラウン大佐がああなって、俺、何も出来なかった。ただ見てるだけで…大佐の名前、呼ぶことしか出来なかった。それが……うん、そうだな、悔しかったんだ」







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