「セツナ!!」
びくりと震えた体から、急速に力が抜けていった。持ち上げていた腕も力をなくし、だらりと下がって剣を取り落とす。倉庫の扉へ目を向ければ、そこには声の主の姿。
「……ロイ…」
「セツナ……ッ暴走するなと言っただろう!!」
彼の脇をすり抜けて、空色の少女が駆けてくる。まっすぐにリオンの元に駆け寄ってきた彼女が床に膝をつくと、リオンの体がぐらりと揺れた。
「リオン!」
「…悪い……ちょっと…ねむ…」
「……うん。眠っていいよ。後は任せて」
「…クラウン大佐のこと…頼む…」
クライサはリオンの体を肩にもたれさせるようにして受け止める。後続隊は今作業場で男たちの捕縛をしているところだから、ハボックを呼んで彼を運んでもらうことにしよう。
意識を失う寸前まで自身のことを心配されてしまったセツナは、少年を見下ろしてクシャリと顔を歪めた。
「……私は駄目だな。いつまで経っても自分自身の制御が出来ない」
ロイは手袋に包まれた手を伸ばし、未だ頬に残る血をぬぐい取った。
「こればかりは他人の口を出すことではないからな。我々にはどうにも出来ん」
「……そうだな。あくまで、私自身で何とかしなければならないことだ」
「セツ姉」
呼ばれて視線を下げると、少女が心配そうにこちらを見上げている。そういえば、あれから救援に向かう筈だったのに、彼女のほうから駆けつけてきたのか。傷一つない様子に安堵する。
「私は大丈夫だよ、嬢。それよりも少尉を」
「うん……」
揃って見下ろした先ではリオンが青白い顔で眠り続けている。優しい彼のことだ、こんなことがあってもセツナと距離をとるようなことはないだろう。けれど、だから、余計に心配になる。彼の精神、心が。
「……忘れられないだろうな」
ぽつり。セツナが零した声は、ロイにもクライサにも届いていた。だが、彼らには返す言葉がない。
セツナは泣きそうに眉を寄せて、しかし口には微笑みを浮かべた。初めて見る表情にやはり黙り込むロイとクライサに構わず、手を伸ばす。さらりと撫でた少年の髪。
『大佐』
必死に名を呼んでいた姿を思い出し、いっそう後悔した。届いていたのに、応えることをしなかった。
「……すまない」
少年は、眠りの中
(それでも彼は優しいから、たまらない)
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