正面から来ると思い込んでいた相手が背後から現れた時、作業場にいた男たち五人は動転しきって冷静な判断が出来なくなっていた。そこにクライサの『大はしゃぎ』が牙を剥くのだから、作業場内はたちまちカオスになる。
倉庫でのリオンたちの行動が目立たぬよう、派手な錬金術を多用して駆け回れば、変形した壁や床がすぐに彼女の独壇場を作り出した。
人質にとられていた女性は、武装した男たちより離れた位置に座り込んでいたこともあり、はじめの登場で相手が混乱している隙に確保し、今は氷の壁で囲んで保護されている状態だ。

「死ね、氷の錬金術師!!」

「貴様がいなければ、我々は!!」

集中砲火を楽々と回避し、床から斜めに突き出した柱を駆け上がる。勢いのまま男たちの頭上に飛び、銃口が空中にいる自身に狙いをつける前に、ナイフを両手に持って一人に斬りかかった。マシンガンの銃身で刃を受け止めながら、男は徐々に後退していく。仲間に当たってしまっては困る、と他の男たちの構えた銃から弾は放たれなかった。

「たとえあたしがいなくても、アンタたちの行く末は同じだったよ」

両手のナイフが銃身に受け止められた瞬間、クライサの足が男の真下に置かれた紙を踏んだ。作業場内を駆け回っていた時にあらかじめ散らしておいた、あの錬成陣の描かれた小さな紙だ。それが一瞬光ったと思えば、次の瞬間、拳のようなものが真下から迫ってくるのだからたまらない。身動きの取れない状態になった彼は、それに顎を殴られ昏倒した。
直後、クライサは合わせた両手のひらを床に叩きつける。火花が五方向に走り、先と同じ錬成陣の紙に辿り着くと、今度は錬成陣同士を繋ぐように円を描いた。

「それがわかんないなら、いっぺん死ね」

眩く輝いた足元が、抜ける。彼女を中心に円の形に、大きな空間の床が崩れ落ちた。悲鳴を上げて四人の男と先に気絶した一人が穴の中へと落ちていく。

「はい、いっちょあがり」

積まれていた木箱や先に錬成されていた柱などもバラバラになって落ちたため、瓦礫に埋もれる結果となった男たちは皆一様に気を失っていた。それを、ちょうどドーナツ状に中心だけ残していた足場の上からクライサは見下ろす。
そして穴の外側へ飛ぶと、すぐに人質の女性の元へ駆け寄った。

「大丈夫?怖い思いしたね」

氷の壁を消してやり、床に膝をついて相手の様子を窺う。しかし女性は俯いたままこちらを見ようともしない。不思議に思いながら、顔を覗き込もうと身を屈めた時、

「死ねぇっ!!」

「わあっ!?」

女性が隠し持っていたナイフを突き出してきたから、クライサは慌てて身を逸らした。先程までの怯えた表情から一転、憎々しく歪められた鬼のような表情に目を見張る。
しかしすぐに頭を切り替え、振り回されたナイフを叩き落として出来た隙に、女性の首筋へ手刀を叩き込んだ。

「……まさか……」

倒れた女性の横顔を見つめながら、訪れた一瞬の安堵を予測が吹き飛ばす。周囲にすでに殺気はない。気がかりなのは、倉庫の二人だ。







仕組まれた罠
(どうか外れて、最悪な予測)








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