その男に比べれば、最後の一人は余程冷静だった。床に突き立った剣を抜くセツナの背中を狙い、拳銃を構える。
彼の思惑がかなわなかったのは、セツナが一人でなかったからだ。
「ぐあっ!」
リオンの銃弾が男の手から拳銃を弾き飛ばし、身を翻したセツナの金眼が、懐から男の目を射抜く。鳩尾に鋭い肘打ちを食らわされたものの、かろうじて倒れず腹部を抱えて喉をせり上がるものに耐えた。だが反撃も防御も出来ないまま、セツナが剣の柄を振り上げ、顎を強打され男は仰向けに倒れる。
四人。全員がセツナの華麗な手腕によって意識を飛ばしたことを確認して、リオンは双銃を下ろした。
「お見事」
「ありがとう」
素直な賞賛にセツナは笑み、その余裕にリオンは肩を竦める。
「さて、後続隊が来るのにはまだ少し時間があるけど……こいつら、どうします?」
「そうそう目を覚まさないだろうから、このまま転がしておいて構わないだろう。それより、嬢の援護に向かわなければ」
「ですね」
振り返り、人質とされていた男女に向き直る。リオンとセツナの二人ともがクライサの助けに向かうなら、彼らをここに残しておくわけにはいかない。もし男たちが目を覚ましてしまったら、彼らを再び人質にとられてしまうかもしれないのだ。それでは救出の意味がない。
かといって、ぐだぐだしていたらクライサがうっかりピンチになるかもしれない。さして考える間もなく、リオンはセツナに向いた。
「大佐は先行してください。俺が二人に付いて、様子を見る」
「了解した」
セツナにも躊躇う様子はない。頷いて剣を鞘に戻しながら、こちらに背を向けた。彼女が扉のほうへ歩き出すのを見送って、さて自分も仕事をせねばと銃をホルスターにしまう。
が、その瞬間、セツナが弾かれたようにこちらを向いた。
「少尉!!」
いつもの沈着冷静な姿とかけ離れた、慌てきった様子で目を見張る彼女にリオンは驚いた。同時に、背後に異様な気配を感じ、振り返る。
(ーーーーーーえ?)
肩越しに見たそれに、感情は何ひとつついて来なかった。
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