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「ああ!はい、覚えてます」

彼女の返答で、本当に分館にあったのだということはわかった。
だからこそ、火事で一緒に燃えてしまったのが明らかになり、エドワードたちの落胆は増す。
振り出しに戻る、だ。

「どうもお邪魔しました…」

「あ…あの、その研究書を読みたかったんですか?」

「そうだけど、今となっては知る術も無しだ……」

「私、中身全部覚えてますけど」

…………はい?
言われた言葉の意味を理解するのに、少々時間を費やしてしまった。
問い返した先で、けろりとした顔のシェスカが続ける。
一度読んだ本の内容は、一字一句間違えず、全部覚えている、と。

「時間かかりますけど複写しましょうか?」

今までの人生の中で、これほど神に感謝したことはあっただろうか。







五日後、再びシェスカの家。
彼女に任せていた研究書の複写は無事済んだらしく、今、クライサたちの前の机にはその写しの山が出来上がっている。
確かに、これだけの量があったのでは、資料を持っての逃亡はとてもじゃないが出来そうにない。

「ティム・マルコー著の料理研究書、『今日の献立1000種』ですっ!!」

ただ、その内容に問題があった。
書かれた文を見ても、やはり料理のレシピらしきものにしか見えない。
同姓同名の人間が書いた全く別の物かと、無駄足だったのではないかとブロッシュは言うが、クライサたち三人の反応は違った。
写しの山を手分けして抱え、中央図書館へ向かう準備をする。

もちろん礼も忘れずに。
エドワードはロスに、身分証明の銀時計と、登録コードと署名の書かれた紙(手帳の切れ端)を渡し、

「大総統府の国家錬金術師機関に行って、オレの年間研究費からそこに書いてある金額引き出してシェスカに渡してあげて」

クライサとアルフォンス、そしてブロッシュを連れて家を後にした。
ロスとシェスカが、紙に書かれた金額に悲鳴を上げるのは、その直後のことである。








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