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ロイの手袋は、発火布という特殊な布で出来ていて、強く摩擦すると火花を発する。
そして、空気中の酸素濃度を可燃物の周りで調整してやることによって、爆発を起こすことを可能にするのだ。

よって、今日のような雨の日は火花を発することが出来ない。
クライサに無能呼ばわりされるのも仕方ない、というわけだ。

「……!!」

地面に両手をついて凹んでいる兄を放置して、スカーへと視線を向けたクライサはその目を見開いた。
視線の先では、男が露になった目でこちらを睨み付けている。
その色は、大いに覚えがあって。

「褐色の肌に赤目の…!!」

「イシュヴァールの民か……!!」

立ち直ったロイが、苦々しげに顔を歪めて言った。
数秒の沈黙。
それを破ったのは、傷の男だった。

「……やはりこの人数を相手では分が悪い」

彼が逃げる気だということに気付くと、ロイが包囲させた憲兵たちに銃口を向けさせる。
だが、彼は見ていなかった。
一瞬足元のマンホールを見下ろした、スカーの目を。

「下がれ!!」

いち早くそれに気付いたクライサが声を上げるが、憲兵たちが動く間もなく、スカーが足元に手をついた。
彼の右手が触れたところからヒビが入り、彼を中心に半径数メートルの地面が崩れ落ちる。
下は地下水道だ。
安全地帯に避難する男たちを確認してから見回すが、スカーの姿はもう無かった。

大きくあいた穴から地下水道を見下ろす部下たちに、追うなと声をかけてから、ロイの元に歩み寄る。

「逃がしちゃったね」

「すまんな、せっかく包囲するだけの時間をかせいでもらったというのに」

「ううん、エドたちを死なせずに済んだから、それでいい」

安堵したような声に、ロイはクライサを見下ろすが、彼女の表情は険しい(というか怒りの)ものだった。
その目は離れた場所で会話を交わす兄弟に向けられており、クライサは一つ息をつくと彼らのほうへと足を進める。
ロイは何も言わず、少女を見送った。









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