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それは器にヒビが入った瞬間だった。
「奴の限界だ!!あいつはもう、神とやらを押さえ込んでいられない!!」
限界まで開かれた口からは大きな目玉が覗き、目や身体の節々からは黒い影が溢れ出ている。
『フラスコの中の小人』は苦しげに顔を押さえて呻いたかと思えば、雄叫びに似た叫びを上げて地面に伏した。
その瞬間、彼を中心に広範囲を衝撃が襲う。
同心円状に地面が凹み、周囲にいた人々は悉く吹き飛ばされた。
それは最も彼に近い場所にいたエドワードとクライサも例外ではなくーーむしろ、彼らが最も大きなダメージを受けたと言える。
大きく吹き飛ばされたクライサは瓦礫に叩きつけられて倒れ、エドワードは運悪くコンクリートから突き出した鉄筋に左腕を貫かれてしまった。
『石……賢者の石……』
鎧の身体がボロボロになってしまったため、倒れたまま動けないアルフォンスは、見た。
ゆらりと立ち上がった『フラスコの中の小人』が、エドワードを視界にとらえたのを。
ゆらり。
一歩、一歩、獣のような目をした『フラスコの中の小人』が歩いていく。
「兄さん…逃げて…」
賢者の石を求めているのだ。
逃げろ。
声は届いているのだが、エドワードは動けない。
鉄筋が左の二の腕に深々と刺さっていて抜けない。
ゆらり、ゆらり。
歩いていた足が、止まった。
小石と何ら変わらない、小さな氷の塊が、『フラスコの中の小人』の頭を叩いたのだ。
「…クライサ…?」
攻撃とも言えないその一手。
しかし、獣の注意を引くには十分だ。
地面に伏したまま、少女は笑んだ。
(アンタになんか、くれてやるもんか)
ゆらり。
『フラスコの中の小人』の足が、進行方向を変えた。
エドワードの顔色が変わる。
クライサは動かない。
「クライサ…おい、クライサ!」
(そんなに呼ばなくても聞こえてるのに)
彼女の手の中にあった赤い石は、砂になって消えた。
あの小さな氷が、最後の力だったのだ。
「何してんだよ……クライサ、おい!!」
(うるさいな。聞こえてるってば)
腕が、持ち上がらない。
無茶が祟ったか。
「逃げろよ…!!クライサ!!」
(悔しいな。動けないんだ)
もう、目の前だった。
『石……人間……エネルギー、よこ、せ』
伸ばされた手。
少女は笑った。
(やればいい)
「……内側から、食い破ってやる」
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