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「っはは!結局お前も人殺しになるわけだ!そうだよねぇ、お前の両親を殺した張本人が、目の前にいるんだから!殺したいに決まってるよねぇ!!」
心底楽しそうに笑うエンヴィーを、クライサは冷めた目でただ眺めていた。
しかし不意にメイのほうへ顔を向けると、笑みを浮かべて通路の先を指差す。
「奥に行きたいんでしょ?このバカはあたしが相手するから、行って」
「で、でモ…」
「あ、人形兵ってのが出てきても放置していいから。こっち来たらちゃんと対処するし」
それだけ言って、またエンヴィーに向き直る。
メイは彼女が言外に邪魔だと伝えていることに気付いて、すぐに先へと駆け出した。
あーあ、と零したエンヴィーだが、それでも彼は笑っている。
「それで?何の恨みを晴らしたいの?両親の仇?ウィルヘイムを滅ぼされた恨み?ああ、何年も騙されてたって恨みもあったよね」
「うっさい」
続く言葉をピシャリと断ち切る。
その顔に、表情はなかった。
「勘違いしないでよね。あたしは別にアンタのこと、大っ嫌いだけど恨んではいないから」
「……へぇ、お前の両親も村人も浮かばれないね。お前が原因で殺されたっていうのに、仇も討ってもらえないなんてさ」
「ご心配なく。諸悪の根元はぶっ飛ばすつもりでいるから」
両手を合わせ、右手に握ったナイフの刃に氷を纏わせる。
クライサの双眸が冷えていくのに気付いて、エンヴィーは変形させた両腕を彼女へ伸ばした。
しかし先制をとった筈の攻撃は難なく避けられ、瞬きの間に少女の姿は頭上にある。
「あたしがアンタを殺す理由は、ただ一つ」
少女を追って見上げた時には遅かった。
真下へ突き出された刃が目の前まで迫り、避けることも止めることもかなわず見開いた両目の間を、深々と貫く。
エンヴィーの眉間に突き立てた氷の短剣から手を放し、クライサは床に着地した。
「リオがアンタを殺す前に、あたしが殺してしまいたいってだけ」
ゆらりと立ち上がったその後ろで、激しく血を噴き出しながらエンヴィーは倒れた。
「あいつの復讐を止める権利はあたしにはないから、あいつがアンタを見つける前に、アンタを仕止めたいんだよ」
だから、立て。
「それだけじゃ終わらないでしょ。死ぬまで殺してやるから、心の準備くらいはしな」
その顔は笑ってもいなければ、怒りを含んでもいない。
何の感情も浮かばぬその表情は、しかし刃のように鋭く、氷のように冷たかった。
エンヴィーは初めて見る彼女の表情に恐怖し、
「……クソが…ッ!!」
同時に、怒りを抱いた。
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