(2 / 7)
 



「要求は?」

暫く続いていた靴音の後、短い音と共に扉を開け室内へと入ってきた、壮年というには些か若い黒髪の男。その後ろには、彼の部下らしき金髪の女性が続く。
部屋には大勢の軍人たちがいたが、上官の入室に気を取られることなく、各々の作業を進めている。列車の運行状況、乗客名簿の確認、憲兵の配置……やるべき事は様々だ。

「現在収監中の彼らの指導者を解放することですね」

「ありきたりだな」

夕方からデートの約束があったのに困った、ここはひとつ、将軍には尊い犠牲になってもらい早々に事件を片付ける方向で……などとぼやいてみれば、バカを言うなと呆れた声が部下から飛んだ。

「大佐、乗客名簿あがりました」

差し出された数枚の紙を受け取り目を通す。
東方司令部司令官である彼は、この地域の情勢が不安定になっているにも関わらずバカンスを楽しまんとしている上官に、呆れを隠せず溜め息をついた。

ふと、その目に止まった名前に、自然と口端が上がる。

「ああ諸君、今日は思ったより早く帰れそうだ。ーー鋼の錬金術師が乗っている」


そう言った直後、更に紙の下部へと滑っていた彼の目が、それを見つけてしまった。

「……おやおや、帰りが遅いと思ったら……」

続いた言葉に、室内にいた者はみな首を傾げ上司を見た。
その彼はといえば、楽しげな笑みを浮かべたままだ。

「喜びたまえ。東部の暴れ馬が帰ってくるぞ」











「機関室に二人、一般客車に四人、一等車の将軍のところに四人……残り十人か」

先程銃口を向けてきた男を見下ろし、指折り数えるのは空色の少女。
その前で、彼女によってボコボコにされた男が腕と体を縛られた状態で座っている。片目の上には瘤が出来、両頬は腫れ、鼻血は垂れ、歯が折れ……随分と哀れな状態になっていた。クライサのあまりの暴れっぷりに、彼に同情した乗客も少なくない。
とはいえ、もう一人の男もエドワードによってボコボコにされ気絶して床に転がっているので、意識を持たせたままにしている分、彼女の方がマシと言えるかもしれないが。

「仲間がやられたとわかったら報復に来るかもしれないし……面倒だけど、あたしたちで片付けよっか」

ここは東方軍の管轄だ。放っておけば、上司の指揮によって勝手に解決してくれるだろうが、一暴れしてくれたエドワードのせいでそうも言っていられない。クライサたちだけでなく、他の乗客たちも危険な目に遭うかもしれないのだ。

「しょうがない。オレは上から、クライサは下からでどうだ?アルは下で、他の乗客たちを最後尾に避難させてくれ」

「オッケー」
「はいはい」

言うとエドワードは車窓から身を乗り出す。
気をつけて、と一言声をかけると、クライサとアルフォンスもまた、それぞれ自分の役割のため動き出した。









[index]

・・・・・・・・


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -