(1 / 16)
 



リオとの一騎討ち以来、ウィルヘイムで過ごした頃の記憶が、少しずつ、断片的に戻ってきた。
五歳より前のことだから、もちろん全てを思い出すことなんて出来ない。
戻ってきた記憶は本当に小さな欠片ばかりだったが、どれもそこで暮らしていた実感を伴ったものだった。

緑の多い土地の中、古い造りの家が並ぶ本通り。
広場では大人たちが語り合い、外れの空き地では子どもたちが遊び回っている。
余所者を嫌う村ではあったが、かわりに住人同士の交流は盛んで、村はいつも温かな空気に包まれていた。
それも、自分に対してだけは例外だったけれど。

(あたしが、クレアに似てたのがいけなかったのか)

老人たちが自分に向ける目にはどれも恐怖のようなものが込められ、親に言い聞かせられていたであろう子どもたちは石を投げてくることもあった。
村の中に居場所は無い。
何度そう思ったか。
そう思うたびに、抱き締めてくれた母の腕の中で泣いた。
父におぶられて眠った。
姉と繋いだ手の温かさは、今でもうっすらとおぼえている。

記憶の中の姉は、いつだって柔らかな笑顔だった。







22.
to the last chapter

最終決戦へ







「……平和だなぁ」

村人たちの明るい声が絶え間無く聞こえる。
焼けた肉の匂いが漂ってきては、すかすかの腹を刺激する。
地面に座り込んだまま、目深に被った帽子のつばを少しだけ持ち上げた。
視界に入るのは、楽しげに笑う大勢の人々と、それをも超える羊の群れ。
張られたテントの下には机が広げられ、その上には羊肉などの飲食物が並べられ見る者の食欲をそそる。

小さな駅舎の壁に預けていた背を離し、立ち上がる。
名物、春の羊祭りで盛り上がるリゼンブールの様子に、クライサは故郷を想った。






 |


[index]

・・・・・・・・


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -