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そこは暗闇だった。
むせ返りそうな鉄の臭いが充満し、地面が見えない程の血が足元を覆う。

「……う…?」

「おう。気が付いたか」

ゆっくりと開けた目に映ったのは、松明を手にしたリオの姿。
ああ、無事だった。
まずはそのことに安堵して、それからクライサは体を起こした。

「あたしたち、どうしたんだっけ……グラトニーに飲まれそうになって…」

「で、飲まれた…な」

そうだ。
確かに、飲まれた記憶がある。
伸びた肋骨にとらわれ、あの大きな眼に吸い込まれるような感覚。

(……あの感覚…どっかで…)

立ち上がってみると、地面を覆う血は膝下までの深さがあるようだ。
これでは、長い髪が血に浸かってしまう(倒れている間に既に浸かりまくりだったろうけども)。
そこまで考えて漸く、目覚めてからずっと疑問に思っていた違和感の正体に気付いた。

「……リオ」

「なんだ」

「あたしの髪は、どうなってる?」

血の中に座り込んでいたリオに問いかけた。
彼は一瞬顔を曇らせ、しかしクライサと視線を合わせて口を開く。
避けようのない事実を伝えるために。

「短くなった」

「……短く…」

「ああ。……たぶん、飲まれた時に切れたんだ」

「切れた……」

クライサの、膝下まであった空色の髪は、今や肩につくかつかないかという長さになっていた。
グラトニーに飲まれた際に、運悪く切れてしまったのだろう。

異様に頭が軽いことに気付き、もしやと思ったクライサの予想通りの現実。
彼女が自身の髪を大切にしていたのをよく知っているリオは、呆然とするクライサを眉を寄せて見つめた。

暫くの時間が過ぎて、ふいに動き出したクライサが愛用のナイフを手に取る。
一体どうしたのだろうか。
心配で目を離せなかったリオの前で、切れずに残っていた長い髪に触れた。

「クライサ!」

刃を当てて、切った。
他と長さの合わない束を見つけては、掴み、切っていく。
それをただ黙々と続けているから、さすがのリオも不安を胸に声を上げた。

「そんなに心配しないでよ」

大体切り揃えられたかと確認し終えて、漸くクライサはナイフを仕舞う。
そしてリオを見て、笑った。
自分は大丈夫だから、そんなに情けない顔をするなと。

「……クライサ」

「ん?……んー…自慢の髪だったし、そりゃショックだよ。こんな形で短くすることになるなんて思わなかったし」








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