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満面の笑みを浮かべている、エドワードとクライサ。
開いた口が塞がらない、ヨキとその部下たち。
驚愕に満ちた彼らの目に映っているのは、山のように積まれた黄金。エドワードが錬成した金を、ヨキの元へと運んできたのだ。

「炭鉱の経営権を丸ごと売って欲しいって言ってるんだけど……足りませんか?」

クライサが金の山を指差しながら尋ねる。その金塊の数は尋常ではない。が、

「めめめ滅相もない!!これだけあれば、こんな田舎におさらばして……」

ヨキの目の輝きも半端ではない。その脳内は、恐らく高官へ贈る賄賂のことなどでいっぱいだろう。
それから、と。チラリとクライサたちに目配せをしてくる。

「ああ。中尉のことは上のほうの知人にきちんと話を通しておいてあげましょう」

これにはエドワードが、胡散臭いまでの笑顔で応えた。隣でクライサが鳥肌を立てているが、構うつもりは全くない。

「でも金の錬成は違法なので……バレないように一応『経営権は無償で穏便に譲渡した』っていう念書を書いてもらえるとありがたいんですけど……」

「おお、かまいませんとも!しかしあなた方もなかなかの悪ですのう」

「「いやいや、中尉殿ほどでは」」

ヨキと共に笑うエドワードとクライサ。悪代官と越後屋(時代劇風)のようなそれを、アルフォンスは一人ついていけずに遠くから見ているだけだった。








「だめだ!皆を犯罪者にするわけにはいかん!」

採掘道具小屋の中。集まった男たちは、ヨキの元に殴り込みに行くつもりでいた。それを、親方ーーホーリングだけが許さずにいる。

その男たちの顔が一斉に歪んだのは、

「はーい皆さん、シケた顔してごきげんうるわしゅう♪」

という、エドワードの上機嫌な一言が原因だった。

「……何しに来たんだよ」

「あらら、ここの経営者にむかってその言い草はないんじゃないの?」

ひょうひょうとした態度のエドワード。それじゃあ火に油を注ぐだけだろう、とクライサは苦笑する。
どういうことだと食ってかかる男に、彼ら二人はそれぞれ何枚かの紙を見せた。この炭鉱の採掘・運営、販売その他全商用ルートの権利書だ。ちなみに名義は前者がエドワード、後者がクライサとなっている。
つまり。

「今現在!この炭鉱はオレたちの物ってことだ!!」

当然ホーリングを始め、小屋中の男たちが驚きを隠せずにいる。その反応に気を良くし、笑みを浮かべたまま彼は続ける。

「……とは言ったものの、オレたちゃ旅から旅への根無し草」

「権利書(こんなもの)なんて邪魔になるだけで……」

「あたしは別に邪魔じゃないけどね」

エドワードが睨んでいるようだが、気にしないでおこう。

「……俺たちに売りつけようってのか?いくらで?」

「高いよ?」

ニヤリと笑みを浮かべるエドワードに次いで、クライサが口を開く。何かを得ようとするなら、それなりの代価を払ってもらわねば、と。
なんと言っても高級羊皮紙に金の箔押し、保管箱は翡翠を細かく砕いたもので、さりげなくかつ豪華にデザインされており、更に鍵は純銀製ときている。素人目の見積もりだが、これら全てをひっくるめてーー


「親方んトコで一泊二食三人分の料金……てのが妥当かな?」


呆然とする男たち。その中で、ホーリングが声を上げて笑い出す。

「はは……はははは、確かに高ぇな!!よっしゃ買った!!」

「「売った!!」」

交渉成立に湧き上がる歓声の中、突然扉が開かれた。


「錬金術師殿、これはどういうことか!あなた方にいただいた金塊が全て石くれになっておりましたぞ!!」

現れたのはヨキだ。手に石くれを持ち、部下と共に怒りを露に入ってくる。
それにもエドワードたちは動じずに答えた。

「これはこれは中尉殿。……はて、何のことでしょう?」

「金塊なんて知りませーん♪」

「金の山と権利書を引き換えたではありませんか!これではサギだ!」

「あれ?権利書は無償で譲り受けたんですけどね。ほら、念書もありますし」

ピラリと念書を見せるエドワード。それに、しまった、というあからさまな顔をするヨキ。二人をよそに、アルフォンスがクライサに問掛ける。

「……いつの間に戻したの?」

「ああ、出がけに二人でちょろっとね」

アルフォンスの気付かぬ間に済ませたらしい。あまりの早業に何も言えなくなってしまった。

「この取引は無効だ!お前たち!権利書を取り返……せ!?」

部下二人に命令するヨキだが、その前に立ち塞がったのは、ガタイのいい男。笑顔だが、威圧感が尋常でない。

「力ずくで個人の資産を取り上げようなんて、いかんですなぁ」

「これって職権乱用ってやつか?」

「う、うるさい!どけ貴様ら!ケガしたくなかったらさっさと……」

その続きがヨキの口から紡がれることは無かった。何故なら

「炭鉱マンの体力なめてもらっちゃ困るよ、中尉殿」

エドワードたちが手を下す必要も無い。哀れにも軍人二人は、力自慢の炭鉱マンたちにボロボロにのされてしまった。

「あ、そうだ中尉。中尉の『無能っぷり』は上のほうにきちんと話を通しときますんで」

「そこんとこよろしく☆」

笑顔で手を振るエドワード、親指で首を切る動作をするクライサ。
ヨキはこの世の終わりのような顔で放心していた。








浮かれた炭鉱マンたちによる酒盛攻撃に襲われたエドワードは、カヤルを含め酔い潰れた男たちと共に床に転がって眠っている。ホーリングの奥さんとアルフォンスを手伝って、クライサは彼らに毛布を掛けていく。
エドワードを見下ろす彼女の表情は、心底嬉しそうだった。






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