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(変なお兄ちゃん)

何かあったことは明白だった。
ヒューズの話をふった時、微かに彼の纏う空気が変わった。
そして何より、

(あたしの目、見ようとしなかった)

いつもなら照れくさくなるぐらいピッタリと合わせてくる視線を、最初の挨拶の時以外、こちらに向けようとすらしなかった。
そういえば、レベッカの自宅に入る許可を得に行った時も、何となく様子がおかしかった気がする。
多分、尋ねたところで答えてはくれないだろうけど。

日も暮れて、通りが闇に包まれた頃。
ホテルのロビーで、クライサはぼんやりと窓の向こうを眺めていた。
見えるのは夜の闇と、街灯や車のライトによって生まれた小さな明かりだけ。

考え事をする時は、やはり一人、静かな空間で。
誰にも侵されない世界だからこそ、高い集中力を発揮出来る。

(……とは言うものの、考えたってわかんないことはあるわけだよね)

今日はここまでにしておこうと、窓側を向いたソファーに腰を下ろしたまま、両腕を頭上に伸ばした。
途端、腕に何かがあたる感触。
振り返れば、ちょうど後ろを通り過ぎようとしていた人にあたってしまったらしいことを知る。
慌てて立ち上がり謝罪するも、運悪く彼の抱えていた荷物は散乱してしまったようで、拾うのを手伝わなくてはと床にしゃがみ込んだ。

床に散った書類やパンフレットを集めていき、端を揃えて手渡すと彼は頭を下げて礼を言った(散乱させた原因を作ったのはこちらなのに)。
そのまま去ろうとした彼の向こう側、足元に新聞を見つけて、これもそうじゃないかと再び身を屈める。
しかし、それを拾った直後、クライサは動きを止めてしまった。

一面を飾るのは、信じられない言葉と見覚えのある人物の写真。
エドワードたちに知らせなくては、と焦る頭に固まった身体は従ってくれない。

「……なんの冗談だよ…」

新聞から目をそらせないクライサに、彼は怪訝そうに首を傾げた。
これは彼の物なのだから返さなければならないのだが、今の彼女にそんな余裕はなかった。





『マリア・ロス少尉を、先月のマース・ヒューズ准将殺害事件の犯人と断定!!』








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