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そして、ホークアイがここにいるということは。
自然、脳裏に浮かぶ、黒髪のあの男の嫌みな笑顔。
その予想を裏切らず、背後から聞こえたのは車のブレーキ音と扉を閉める音、そして聞き覚えのある(聞き慣れた)テノールの声。

「やあ、鋼の」

顔を歪めて振り返った先には、予想通りの人物、ロイの姿があった。
何だねその嫌そうな顔は、とエドワードをたしなめながらも、ちゃっかりウィンリィをナンパしている彼にクライサの口から溜め息が溢れ出る。
ロイと直属の部下たちは、先日(クライサがダブリスに向かった頃だろうか)、正式に中央勤務になったらしい。

「中央招聘おめでとう、お兄ちゃん」

「ああ。ありがとう、クライサ。今日はどうした?」

賢者の石と人造人間について調べている旨を伝えれば、ロイは少々眉を寄せた。
『人を作るべからず』と命令している軍から、人造人間に関する情報なんかがホイホイ出る筈がない(ま、言われてみればそうだ)。

「あ。そうだ、もうひとつ。ヒューズ中佐に挨拶しに行こうと思ってんだ。中佐、元気?」

返答を待つ子どもたちの前で、ロイとホークアイの動きが止まる。
こちらに振り返った彼は表情を変えなかったが、様子を変えた空気にクライサが首を傾げた。

「いない」

暫しの沈黙の末、口を開いたロイが呟くように言った一言。
は、と問い返すのはエドワードだ。
何故だろうか、目を背けたホークアイが凄くつらそうな顔をしている。

「……田舎に引っ込んだよ。近頃中央も物騒なんでな、夫人と子どもを連れて田舎に帰った。家業を継ぐそうだ」

もう中央(ここ)にはいない。
そう言う彼の背中に、やはりおぼえる違和感。
けれどその正体がわからなくて、クライサは何かを尋ねることが出来なかった。

「そっかー…残念だなぁ」

「軍人てあぶない仕事だもんね」

会いたかった、挨拶しに行きたかった、と子どもたちは口々に言う。
空色の少女だけが、じっと兄の背を見つめていた。

「賢者の石と人造人間だったな。何か情報があったら連絡しよう」

ロイはホークアイを引き連れて、門の中へと進んでいく。
子どもたちはその背を見送る体勢のまま。

「氷の、鋼の。先走って無茶な事はするなよ」

「?わかってるよ」

「ああ、程々にしとくよ」

結局、彼はそのまま、振り返らずに歩いていってしまった。









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