今でも鮮明に思い出す、私が踏み出した間違った一歩。
連れていかれてしまった私の友達をどうしても取り返したくて、そしてこれ以上連れていかれたくなくて、必死に考えた子供の思考の行きついた先。
コガネの地下、黒い服の男によくわからない仕掛けの先に案内され辿りついた先で手渡されたものはその男たちと同じ黒い服に、組織を表すアルファベットが入った服だった。

「どこから話したらいいのかしら…私が、ジムに挑戦するのを決めるより前の話よ」
「確か、ルエノは2年前ぐらいから旅をしてるんだろ?」
「そんなこと話したかしら?」
「ルエノのお母さんが言ってたぜ」
うちに来た時か、と小さく溜息をつく。きっと突然詳しいことも話さず家から飛び出した私を心配したに違いない両親。そんな私が誰かを連れて家に帰ったことが嬉しくて色々喋ったに違いない。
「そう…2年前。私はジムに挑戦するためじゃなくて、別の目的で家を出たの」
「モコ?」
モココが私の服を引っ張って自分は?と言いたげに首を傾げた。それに少し笑って、優しくふわふわの頭を撫でてあげる。
「モココ…あの頃はメリープね。この子は連れて行かなかった。本当に一人で、なんとかしようと思っていたから」
「ポケモンも連れずに旅を始めたのか」
アグアの落ち着いた声での問いに、私は首を横に振る。
「正確には旅じゃない。色んなところを見たり、ポケモンを捕まえたりなんて考えてなかった」
「じゃあ、何のために…?」
あぁ、ちゃんと聞いてくれるんだ。真っ直ぐに私を見つめて話を振ってくれるリオに安心するのと同時に、心の奥がなんだか痛くなった。こんな真っ直ぐな人に私は、自分の痛みを押し付けようとしているんだから。
「…2年前。ある組織がこの地方で暗躍していたでしょ?」
「ロケット団だろ?」
「話には聞いたことがあるな」
「私の実家…モーモー牧場もね、あいつらに狙われたの」
アグアが組んでいた腕を強張らせるのがわかった。リオは思っていたよりも驚いてなくて、これもお母さんが話したんだなぁとわかる。
「脅されて、売り上げ奪われそうになって…なんとかお父さんが追い払おうとしたけど、結局、メリープたちが何匹か連れていかれてしまった」
悲しそうに鳴き声をあげてあいつらに連れていかれるメリープたちを、私は家の中から見ているしかなかったあの日。いつも一緒にいてくれて、あの頃の私には唯一の友達だったあの子たちを無理やり引っ張っていくあいつらに、生まれて初めての憎しみを覚えた。
「警察に届けたけど、あちこちで問題起こしてるロケット団にお手上げ状態みたいで。大人がなんとか出来ないなら…私がメリープたちを助けないと、そう思ったの」
「あんなに大事にしてたもんな、メリープたちのこと」
実家でのことを思い出してそう言ってるんだろうか、リオがうんうん頷いていた。しかし隣のアグアの表情は何かを察したのか険しくて、リオじゃなくてこいつだけに話したほうが理解が早そうだなと思ってしまう。でもそれは私の話をちゃんと聞いてくれるとはまた違う話だ。私はちゃんと、私の口から言いたい。
「だから…私、ロケット団の内部に入り込んだの」
「…え?」
「世間も何も知らない子供だったから、大したこと任されなかったけど。それでも、懐に入り込めたことに違いはなかったわ」
「えっと、ルエノ、それって」
リオが困惑したように言葉を紡ぐ。それでも私から視線を逸らすことはない彼に、そっと真実をしっかり伝えた。
「そうよ。私は…ロケット団だった」
逆に私は視線を落としてしまう。前は出来ることなら墓までもっていきたかった秘密、誰にも話したことがない事実。まさか自分の口から誰かにしっかりと伝える日が来るなんて、あの頃の自分は想像できなかっただろう。
勝手に指先が震えて、悟られないようにモココから手を離した。この子にも教えたことがなかった、それは信頼しているモココを裏切るように思えたからだ。きっと私たちの言葉を理解しているであろうこの子たちが今どう思っているのか、それにすら恐怖を抱きそうで。
それなのに、何かが指先に触れて驚いてそっちを見てみれば、モココがしっかりと私の手を掴んでいるのが見えた。きっと戸惑っているはずなのに笑顔を向けてくれるこの子が相棒で本当に良かったと、少し視界が滲む。
「…なんでだよ」
少し悩んでいるようだったリオが小さく呟いたと思ったら、いつもの調子で喋り出した。
「メリープたちを助けたかったんだろ?そんな、自分のこと犠牲にするような方法じゃなくて、他にも何かあったんじゃないのか?」
「今なら何とか考えるでしょうね。でも…あの頃の私は、ただあの子たちを助け出すことで頭いっぱいだったのよ。…さっきのリオ、みたいにね」
リオがハッとした表情をして、少し視線を伏せた。
ルーが目の前で連れて行かれてしまったあの瞬間の焦ったリオが、昔のがむしゃらに何とかしようともがく自分に重なって見えた。なんとかしようと思いついたことを咄嗟に行動に移すけど空回りして、焦りから想いだけが大きくなっていく。それが自分を捕えて離さない枷のようになって重くのしかかるんだ、それを私は知っている。
「でも…俺は、一人でなんとかしようと思わないぜ。俺にもルエノにも、心配してくれる人たちがいるんだ」
「うん、そうよね…今は、わかってる」
少し怒ったような口ぶりのリオに、申し訳なさを感じると共に嬉しさも覚えた。しっかり理解して怒ってくれているんだと、私がしたことを放り出さずに受け止めてくれていると思えたから。
「それで、何がどう今回のことに繋がるんだ」
腕を組んだままのアグアが話の方向を元に戻す。そう、今は時間をあんまりかけていられない。
「まぁ、詳しいことは省くとして…2年前のある日、ロケット団が解散する直前に私は、ある任務に同行したの」
正直この任務のことは、今までそこまで重要に考えていなかった。あの時、あの写真を見せられるまでは。
「…先に、謝っておくわ」
「何をだ?」
しっかりとリオを見れば、その彼は不思議そうに首を傾げて。
「嘘を、ついていたから」
確信がもてなかったから、というのは言い訳になると思う。本当のことを言えばきっとリオは困惑して悩むだろう。ルーと二人、太陽のようなこの人の表情がかげるのを見たくなかったから、私は嘘をついた。
タンバで聞いた事実、写真と私の記憶、そしてルーが連れて行かれた方向が真実である今、もう嘘は貫けない。
「私は情報班だったんだけど、人手不足からその任務につけって命令がきたの。現地には科学班もいた。任務内容はあるポケモンの捕獲だったから、発明品とかも使われたみたい」
もっと早く教えていたら何か変わっていたのかな、と悔いが混じり始める。それでもここまで来てしまった以上、もう後戻りは出来ない。私がこれまで選んできた道を、しっかり振り返られるようになるためには、進むしかないんだ。
「そこにいた科学班に…いたのよ」
「そういう、ことか」
少し渋った私の言葉に理解をしたアグアが頷いた。リオはわかっているのか、まだ理解出来ていないのか、私を見たまま次の言葉を待っている。
ぎゅっとモココの手を握って、口を開いた。
「リオの、お父さんが」
その事実をリオはどう受け止めるのだろうか。私が知らない昔や今のことはわからないけど、少なくとも2年前にリオのお父さんはロケット団にいたのは確かだ。
「エンジュで写真、見せてくれたでしょ。それで気付いたの。でも…知ってるって言えなかった、私がロケット団にいたこと、話すことになるから」
だから、ごめんなさい。そう少し頭を下げれば、リオが小さく息を吐く音が聞こえた。動揺しているのか、それを落ち着かせようとしているのか。私が悲しむことではないのに、何故だか泣きたくなってきた。
「…父さんに、聞かないとな」
しっかりした声でリオはそう言った。
「何でロケット団にいたのか、そのこと母さんは知っていたのか、とか、色々。聞き出す」
「リオ…」
「でも今は、ルーを助けてやらないと」
顔を上げてリオを見れば、その目には少し動揺が見て取れたけど泣き出しそうだったり、悲しそうだったりとかそういうことはなくて。なんて強い人なんだろうと、私の心が痛む。
「そう、よね…悩むのは、後よね」
リオはもうわかってる。呟いた言葉は自分に言い聞かせるためだ。
「とにかく、リオのお父さんはロケット団に所属していた、それが一つ。そしてさっきタンバで、ここにロケット団らしき人物が来ているって目撃情報があった。それを聞いて駆けつけてみたら、ラノが現れたわけ」
私が見た過去の事、そして現在起きたことを簡単にまとめてみる。それらは一つの事実を表していた。
「ラノは、リオの父親の仲間だったな」
「そう。つまり…リオのお父さんとラノは組織の人間で、ロケット団は今でも活動を続けているってことになるわ」
2年前のある日、ラジオでロケット団は解散宣言を出されていた。それ以降何か噂があるわけでもなく、世間的には影も形もなくなっていたはず。それでも、そう考えるのが一番しっくりくる現実があった。
「父さんとラノが…」
「それが事実なら、ルーが連れて行かれた場所に心当たりがあるの。それが本題」
リザードンが飛んでいった森のほうに視線を向ける。リオとアグアも同じ方向を見たのがわかってそのままそっちを指差す。
「あっちにはサファリゾーンっていう施設があるの。そこの地下に、ロケット団の研究施設があったわ。今でも組織が動いているなら、そこも使われていると思う」
様々なポケモンが自然な環境で暮らしているサファリゾーン。そこのポケモンたちすら研究対象にしていた組織は運営側に入り込んで中から支配していた。私は情報を届けに幾度かその施設に入ったことがある。
「しかしその施設にマルルーモが連れて行かれたという確証はないぞ」
「…行こう」
アグアのもっともな意見に口を開こうとしたら、リオが頷いた。驚いてリオを見ればまだ空を見ていて、でも拳は何かに耐えるように固く握られたままだ。
「なんか、色んなことがわかって、正直頭がいっぱいいっぱいだ」
そのまま喋り始めたリオに罪悪感を覚えた。受け止めると言ってくれた、その言葉に甘えた私は年下の男の子にとても重いものを押し付けてしまったんだ。
「でも!」
ぱちんと音が響いた。リオが自分の両手で頬を思い切り叩いた音だ。
「それで立ち止まってたら、それこそ置いていかれるぜ!行動しなきゃ、何もわからない!」
それはきっと、彼が旅を始めて感じたことそのものなんだろうなと思った。たくさんのものを見て、たくさんのことを受け止めたからこそ、もっと先へと行く勇気があるんだと私は思う。
「手がかりはそれだけなんだ、そのロケット団の施設に案内してくれ、ルエノ!」
そして自分を混乱させる原因になった私をまだ頼ってくれるリオに、私は力強く頷いた。
「勿論よ!だけど、まずはタンバに戻ってポケモンセンターに行きましょ」
ルーだけでなくスイクンも手に入れたラノが何をし出すのかは未知数。とてつもなく強くなっていたギャロップともまた戦うことになるだろうしそう提案すれば、リオもアグアも頷いた。








ポケモンたちを受付に預け、治療が終わるまでの時間を各々過ごす。幸いにもあまり混んでいないセンター内、治療はすぐに終わるとジョーイさんが言っていた。
「ちょっと外出てくる」
「そう、わかったわ」
ふかふかなソファーに座っていたルエノに一声かけて、俺はポケモンセンターから外に出た。もう夕方も近い空はまだ青くて、それでもここに到着したばかりとはまるで見える景色が違うように思えた。
父さんがロケット団にいた、その事実を聞いた俺は自分で思っていたよりも冷静でいた。きっと心のどこかで予感があったのかもしれない。いつも笑顔で遊んでくれた父さんとやけた塔で会話をした父さん、まるで別人のように思えた。真っ直ぐに俺を見て、良いことは良い、悪いことは悪いとしっかり教えてくれた父さんが、確かにそこにいた俺なんかいないみたいに夢を語ってルーをさらおうとした。目が確かに合ったのに、それでも俺なんか見ていないようだった。
父さんはもしかすると、ロケット団にいいように使われているだけなのかもしれない。
そんな考えが頭によぎった。憶測なんかじゃなくて、たぶん俺の願望だと思うけど。そうであっていてほしい、そうじゃなかったら父さんは、本当に俺の知らない父さんになってしまうから。
「そういえば、ブビィを連れてきたのは父さんだったな…」
人間にあまり懐いていないポケモンだと、父さんはどこか切なそうにしていたのを覚えている。研究所から連れてきたと言っていたけど、それはやっぱりロケット団の、ということだろうか。
ふわりとそよぐ潮風が耳飾を揺らした。そっとそれに触れて目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。
今から向かうところは敵のアジトだ。ラノだけじゃない、父さんだっている可能性もある。ちゃんと目を見て、踏ん張って、聞くことを聞きださなきゃこの心のもやもやは晴れない。だから、次父さんに会えたときには、何が何でも聞いてやるんだ。俺の為にも、ルーの為にも…ワカバで帰りを待ってるだろう、母さんの為にも。
「あぁ、いたよ、あの子だよ」
後ろからそう声が聞こえて目を開き振り向くと、そこにはカノンの居場所を教えてくれたおばさんとどこかで見たような気がする男性が立っていた。素足に道場着らしいボロボロのズボン、上半身は裸のその男性は俺に歩み寄ると顎に手を当てて笑った。
「坊主、今日ここに来たっていうトレーナーだな」
「は、はい」
逞しい体なせいなのかわからないけどどこか威圧感を感じて思わず返事が上擦る。するとその男性はまた豪快に笑った。
「がははっ、驚かせてすまねぇ!お前たちがカノンを訪ねてきたって聞いてな、話を聞きたくてよ」
「勝手に話してごめんなさいねぇ、これうちの旦那なのよ」
少し後ろからおばさんが手を軽く振りながらそう言う。
「さっきカノンが俺のところに来た。これまで嘘をついていたことを謝罪された、が、俺が気にしてんのはそこじゃねぇ」
それまでの明るい雰囲気が消え、おばさんの旦那さんは真剣な表情になった。きっとカノンが嘘をついていたことを謝罪する過程で、この人に全て話してしまったんだろう。
「女の子が誘拐されたってのは本当か」
「…はい」
きっと嘘はつけない、この人の真剣で真っ直ぐで、気迫を感じる瞳にそう思った俺は素直に頷いた。すると男性はおばさんと視線を合わせ頷き合い、また最初のように表情を緩めた。
「どの方に連れて行かれたか覚えてるか」
「空を飛ぶポケモンで、森のほうに行きました」
「そうか、わかった。安心しな、俺たちが必ずお仲間連れ戻してやるからよ。ポケモンセンターで待っていてくれ」
そう言われると確信していた。俺はこの人から見ればまだまだ子供だし、任せたなんてことには絶対にならないことを。きっとロジーがここにいたら当たり前だよなんて笑われるんだろうな。
「あの!」
思わず大きくなった声に、男性もおばさんも少し驚いてしまったみたいだ。でも気にせず俺は言葉を続ける。
「俺が、行かないといけないことなんです。俺が、俺たちが助けに行きます!」
「そりゃまた…どうしてだ?」
どっしり構え顎を撫でながら俺からの応えを待つ男性に言葉が少し詰まった。父さんが、なんて言いたくなかったんだ。
「さらわれた仲間は、俺たちを待っていると思うんです。目の前で連れて行かれたのに何も出来なくて、それで誰かに助けてきてもらうなんて…俺は嫌だ!」
脳裏によぎる、伸ばされたルーの小さな手を握れなかったことが悔しかった。今度こそちゃんと掴んで、離さないように。そのためには俺から迎えに行かないと、後悔が絶対に残る。
「しかし、このタンバで起きたことだ。俺たちが黙っているわけにもいかねぇしなぁ」
「止められても何されても、俺たちは行く!覚悟を見せろって言うなら見せてやるさ!」
少し考えるように視線を巡らせた男性。それに奥さんが身を乗り出して反論した。
「ちょっとアンタ、まさかこの子を行かせようって言うんじゃないだろうねっ」
興奮気味の奥さんを片手で制した男性は、また俺にその真っ直ぐな視線を向けてきた。
「なぁ坊主。滝にうたれてみるか?」
その言葉に、ルーが見ていたガイドブックを思い出す。そこに載っていた写真で滝にうたれていた男性、それこそ目の前にいるこの人だった。思い出して、だから見覚えがあったのかと納得する。
「それが…覚悟を見せることになるならやるぜ!」
そう力強く応えると、男性は少し間を空けてまた大きく笑った。とても愉快そうに、楽しそうに、何故か嬉しそうに。
「そうかそうか!わかった、しかと受け止めたぜお前の覚悟ってやつを!」
「あ、アンタっ」
「止めてやるな。こいつは男の子、なんて柔な生き物じゃねぇ。覚悟が出来る男だ」
どうやら俺が本気なことについてはわかってもらえたらしい。
「だからってねぇ…」
「心配はねぇ、俺がついていく!」
「え!?」
男性の言葉に今度は俺が驚く番になった。どうやら俺たちがルーを助けに行くことにもう異議はないが、この人も一緒に来る気らしい。
「まぁ、アンタが一緒なら…」
「お前は鍋でも用意して待ってろ!こいつとお仲間ひっつれて戻ってくるからよぉ!」
「はいはい、わかりました」
夫婦らしい会話がされ、それをぽかんと聞いていた俺の肩にぽんっと手が置かれて驚いて我に返る。
「ってことでよろしくなぁ!女の子が連れて行かれた場所に目星はついてんのか?」
「は、はい、一応っ」
「がはは、お前敬語なんて柄じゃねぇだろ!普通に喋ってかまわねぇ」
ばしばし肩を叩いてくるその人の手からは何故か温かみとか優しさを感じられて心強く思えてきた。
どうルエノとアグアに説明しようと頭の片隅で思っていると、ポケモンセンターのドアが開いて二人がこっちに駆け寄ってくるのが見えた。
「リオ、治療終わったわよ!」
「…誰だ?」
近くに来れば俺が見知らぬ男性に絡まれているのを不審に思ったのか、アグアが眉間にしわを寄せていた。しかしルエノは違う様子で、俺の隣の男性を指差したがその指先が何故かわなわなと震えている。
「ちょ、ちょっと、どういうこと?なんで、ジムリーダーとリオが仲良さげにしてるの?」
「…ジムリーダー?」
「おう!自己紹介がまだだったな、すまねぇ!俺はこのタンバシティのジムリーダーしてるシジマってもんだ、よろしくなぁ!」
「え、え!?」
名乗ればまた豪快に笑った男性に、アグアが小さく溜息をついたのが聞こえた。











ポケモンセンターでポケモンたちを受け取った俺たちは、タンバから出てサファリゾーンを目指す。夕日が海に沈み始め青かった空は赤に変わっていき、段々と吹く風も冷たさを増した気がした。
「へぇ、お前はジムの挑戦者か!」
「そうよ、アンタのジムバッジもこれが終わったら奪ってやるんだから」
相変わらずジムリーダーに容赦ないルエノは早速宣戦布告をかましているみたいだ。された側のシジマはというと何故か肩にモココを乗せて片腕で支えていた。モココは楽しいのかシジマの頭に手をのせて遠くの夕日を見てにこにこしている。たまにゴースが視界を遮ってはモココをからかっているようだ。それを隣で見上げているブーバーは、もしかして羨ましいとか思っているんだろうか。
シジマ、ルエノが先頭を歩いているのを見ながら俺とアグアは少し後ろを歩いていた。何故かアグアはあまりシジマと話そうとせず、こうして先程から距離をとっているように感じる。まぁアグアとシジマとではタイプが違い過ぎるから近寄りがたいのかもしれない、俺も最初は圧倒されそうだったし。
「海、綺麗だよな」
夕日に空だけじゃなくて海も赤く輝いてる。昼間の真っ青な海も好きだけど、夕方の赤と青が混じりあう空と海も気に入っていたりする。
「もしも」
突然、ぽつりとアグアが言葉を零した。
「マルルーモが今から向かうところにいなかったら、どうするんだ」
アグアも海を見ていた。なんだかその表情はどこか切なそうで、今見えている景色は俺とは違うように見えているんだろうなとどこかで思う。
「そうだな…全力で捜すよ」
「当てもないのに、か?」
「今から行くところはロケット団のアジトだろ?何か、例えば他のアジトの場所とかわかるかもしれないしさ。とにかく何かするぜ」
だってきっとルーは待っているから。スイクンには信用されていない、なんて言われてしまったけど、ルーは俺に手を伸ばしてくれたんだ。いつも楽しそうに旅をしてくれていたんだ。
「俺にはルエノもアグアも、シジマみたいに協力してくれる人たちがいる。諦めたりなんか絶対しない」
「そうか」
協力してくれる人たちの中に名前を上げても否定をしなくなった。アグアも俺のこと、少しは認めてくれているんだろうか。アグアは俺とは違う考えをもっていて、何故か時々寂しそうな表情をしていて、きっとルエノのように何かを抱えているんだろうなと思ってる。もしそれを打ち明けることでアグアが今までよりも楽しく生きられるならそうしてほしいけど、ルエノよりずっとずっと頑固そうなアグアから聞き出すのは至難の業だろうなぁ。
そんなことを考えながら歩いていると目の前にサファリゾーンの看板が見えてきた。小さな建物が入口にあって、大きな柵で囲まれたその向こうに見える広い土地にはたくさんのポケモンたちがいるんだな、と少しわくわくしてしまう。
「あの建物の受付の裏に隠し階段があるの。そこを降りたら施設の中よ」
ルエノの説明を聞きそのまま歩みを進めようとした時だった。突然シジマがモココを地面に下ろして両腕を伸ばし、俺たちの足を止めさせた。
「早速妨害があるみてぇだなぁ。どうやらここに何かいるのは間違いないぜ!」
シジマがそう言った途端、道沿いに広がっていた森から黒い影がたくさん飛び出してきた。見覚えのあるそれはやけた塔でも見かけたデルビルたちで、そのデルビルたちを統率するように中央にヘルガーが立ちふさがった。
「指示を出してるトレーナーは…ここにはいねぇみたいだな」
威嚇をするように唸るポケモンたちを前にしても怯まないシジマは、ポケットからモンスターボールを取り出した。
「坊主、お前らは先に行け!」
「でも、結構多いぜ!」
「ジムリーダーなめんじゃねぇぞ。すぐ片付けて後を追うから、無理はすんな!」
そう言いながらボールを投げると、赤い光が地面にぶつかり形になっていく。青い体に白い手袋をしたような容姿のポケモンが姿を現して、気合いを入れるように拳と手のひらを打ち付けた。
「わかった!シジマも無理するなよ!」
声をかけてから、どうデルビルたちの間を通り抜けて建物に入るか考える。建物の前に広がっているデルビルたちとヘルガーはここから先には通さないと言っているようで、さすがに俺たちも少し戦わないと道は開けそうになかった。
ブーバーに指示を出そうとしたその途端、俺の前にルエノとモココが駆け出た。
「モココ、わたほうし!カビゴン、かいりきよ!」
モココがたくさんのわたを生み出しデルビルたちの視界を奪う中にルエノがモンスターボールを投げ込んだ。現れたカビゴンは近くにあった岩を持ち上げ、デルビルたちを施設があるほうとは逆に誘導するように岩を投げ込む。
「先に行って!」
そのままデルビルたちとバトルを始めたモココ、カビゴンに指示を出しつつルエノが俺たちにそう叫んだ。
「ありがとな!」
「階段を降りたら大きな通路だけ。小部屋がいくつかあるけど迷うほど広くないわ!」
カビゴンが岩でさりげなく作ってくれた道を駆け抜ける。ゴースが先を飛んでいけば施設のドアを開けてくれた。
「嬢ちゃんも行って良かったんだぜ?」
「ちょっともやもやしてたから暴れたかったのよ。それに、挑戦する前にくたばってもらっちゃ困るのよね!」
「がははっ!威勢がいいなぁ、母ちゃんみたいだ!ニョロボン、なみのりだ!」
大きな波のような水の技がデルビルを巻き込んでいく。それを満足そうに見ていたシジマだったけど、モココやカビゴンの攻撃を飄々と避け受け止めるヘルガーを見て楽しそうに笑った。
「久しぶりの野良試合だ!楽しませてもらおうか!」




*← end
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