「ライコウ…」

誰もが寝静まり夜風が森を鳴らす深夜、俺とルエノを睨みつけるそのポケモンは今まで出会ったポケモンの中でも圧倒的な威圧感をもっていた。
ルエノが普段のはっきりした声ではなく、刺激しないようになのか慎重に呟いたそのポケモンの名前を俺は繰り返してみる。
「そうよ…私も本でしか見たことないけど。でもわかる、こいつはライコウよ。雷(いかずち)から生まれた、ジョウトのどこかにいると伝えられていたポケモン…」
本で得た知識だろうか、ルエノがそれを思いだすように喋っていると、こちらを警戒するように見ていたライコウがまた足を動かし始めた。ゆっくりとこっちに向かってきている。遠くにいたライコウが近くに来るだけで何故だろう、空気が張りつめていく。ルエノの隣に駆け寄りたい気持ちがあるのに、動いたらその空気が破裂してしまいそうで動けなかった。
「戦う気がないのなら、それにこしたことないんだけど…っ」
ポケモンとのバトルではいつも自信満々で突き進んでいたルエノすら、弱音のような言葉を吐いた。
「モココとブーバーを呼んでこれたら」
「相手は伝説クラスのポケモンなのよっ?」
俺の言葉を遮ったルエノに目を丸くする。いつになく慎重だと感じた。ルエノはライコウを睨んだままで、一歩も動こうとしない。ふとルエノが視線を動かせば、それはさっきメリープたちが逃げて行った方で。
そこで気が付いたんだ。伝説クラスのポケモンとここでバトルをするってことは、周りに及ぼす影響もそれ相応だ。ここはルエノの実家だし、ポケモンたちのたくさんいる。
「でも、どうするんだ。相手はやる気満々みたいだぞ」
ライコウを見れば時折バチッと放電していた。その赤い瞳の中にどこか、怒りのようなものが混じっているようにも見える。じりじりとルエノとの距離を縮めて、いつ襲い掛かってきてもおかしくない状況だ。
「…わかったわ」
ルエノがボールを構えていた手にぐっと力を入れたのがわかった。そして覚悟を決めたように、突然走り出す。何故かライコウのほうに、だ。
「ルエノ!!」
俺は血の気が引いて思わず叫んだ。しかしルエノは真っ直ぐライコウに向かっていて、ライコウもルエノを見据えたまま足を止めて構える。そしてライコウが何かをしようと口を開いた途端、もう間近にいたルエノは持っていたモンスターボールをライコウの顔面の前で両手で開いた。ボールから放たれた赤い光に目がくらんだライコウは小さい鳴き声と共に顔を左右に振って、ルエノはライコウの背後のほうまで駆け抜ける。そして少し離れたところまで行けば俺とルエノでライコウを挟む形で向き合った。
「ゴンベ、かいりき!」
先程の光と共に解き放たれていたゴンベはライコウの腹の下にいて、その頑丈そうな足を掴むと自分の何倍もあるライコウを持ち上げ地面に叩きつけた。しかしすぐに態勢を立て直したライコウは前足でゴンベを薙ぎ払う。地面を転がったゴンベだったが、起き上がって顔についた草を払うとすぐにまたライコウに詰め寄った。
「のしかかり!」
地面に跡を残しライコウの頭上に飛び上がったゴンベが空中で一回転しライコウに向かって落下する。しかしそれが届く前にライコウはかわし、地面に着地したゴンベに向かって電撃を放った。
「ゴンベ!」
電撃でひるんだゴンベに、さらにライコウのとっしん攻撃が当たる。自分のほうまで吹き飛ばされたゴンベを腕を伸ばして受け止めたルエノまで地面に転がってしまう。
「ルエノっ大丈夫か!?」
ライコウは俺に背中を向ける形で完全にルエノたちをターゲットしたらしい。駆け寄ることが出来ない俺は無事を確かめようと叫んだ。
「大丈夫、だから…今のうちに、アンタは!」
「っ…わかった!待ってろ、すぐ戻ってくるからな!」
ライコウが背を向けていてルエノたちに集中している今なら、柵を越えてブーバー達を呼んでこれる。このままルエノたちを放っていくことに戸惑う気持ちを押し殺して、俺は家のほうに駆け出した。




久し振りに家に帰って来たのに、リオやルーたちがいるからどうしていいからわからなくなって。普段家にいた自分はどんな感じだっただろうか、どうやって笑っていたんだろうか、そんなことばかり考えていた。お母さんに言われて気が付いた、私が誰かを家に連れてきたのが初めてなのを。
私にとっては友達はポケモンたちだけで、旅を始めてからはもっとそう考えるようになったと思う。すれ違うトレーナーはライバルで、私がしっかりしてみんなと勝ち進んでいかなきゃいけないんだって。だから正直、リオの困ってる人を見たらてだすけって考えに戸惑った時期もあった。どうしてわざわざ、遠くにいる人に腕を伸ばして助けてあげなきゃいけないんだろうかって。私が助けてあげたいものは、そういう人たちじゃない。
リオのお父さんの一件があったから、久しぶりに家に帰ってみたくなった。なんとなくリオとルーの前でみんなと戯れるのがためらわれて、夜になってから会いに行こうって思ってた。でも結局リオには見られるし、ぽろっと何かを言いそうになったし、今目の前で対峙している伝説クラスのポケモンには出くわすし…。
「こんなことになるなら、帰ってこなきゃ良かったかしら…!」
受け止めたゴンベはもう傷だらけで、どれだけ相手が強いのかがわかった。立ち上がってショルダーに入れていた予備のきずぐすりをゴンベに使ってやる。リオが戻ってくるまで、頼れるのはこの子だけなんだ。
ゴンベもライコウの強さに驚いているのか、少し戸惑っているように私を見上げてきた。相手が強いのはこの子もわかってる、私も。
「でも、やるしかないのよ」
だってここで退いたら、私が今まで頑張ってきたことが無駄になる気がするから。
ぱちんと両頬を叩いて気合いを入れ直したゴンベは、またライコウと向き直る。ライコウは森から出てきたときと変わりない威圧感をもっていて、全然余裕なのが伺えた。
月明かりが照らす中、どうしようかと思考を巡らそうとしたけどライコウが動いたのが見えて目を凝らす。
「ゴンベ、避けてのしかかり!」
電撃を放とうとしたライコウが雷をまとったのが見えて、咄嗟にそう指示する。考える時間すらくれないって、せっかちなポケモンね!
ライコウが口からゴンベに向かって電撃を放つけど、それを避けたゴンベが一気に距離を詰める。そして体当たるようにのしかかりをくらわすけど少しふらついただけで、体を捻ると尻尾でゴンベを地面に叩きつけてしまう。
ふと、視界が暗くなった。どうやら月が厚い雲に覆われてしまって、月明かりが遮られたようだ。
「っゴンベ、シャドーボール!いっぱいよ!」
ふと思いついてそう叫べば、地面に転がったままのゴンベが空に向かってシャドーボールを放つ。当然ライコウに当たるわけはなく、ゆっくりゴンベに近づいたライコウは前足でゴンベを踏みつけた。
「ゴー…!」
「今よ、シャドーボールの雨を降らせてやって!」
苦しそうに声を上げたゴンベに胸が痛んだ。私の指示通りにゴンベは空に放ったままだったシャドーボールをライコウに向かって降らせる。視界が突然悪くなった暗闇の中まだ宙に漂っていたシャドーボールに気付いていなかったようで、ライコウはひるむようにゴンベから足を退け少し後退した。
それでも、堪えたような素振りはまったくなくて。
「ゴンベ!戻ってきて、回復しなきゃっ」
そう声をかけてもなかなか動かないゴンベ、思っていたより体力を削られているんだと気付いたときには遅くて。私が駆け寄るより早くゴンベに近付いたライコウは電撃を放とうとしていた。
「ッやめて!」
これは公式バトルなんかじゃなくて、トレーナー同士のバトルでもない。嫌な未来が想像出来てしまった私はありったけの声で叫んだ。必死に伸ばした腕は、ゴンベには届かない。


「メェェ!!」

私が腕を伸ばした先に現れたのはふわふわの毛をもった私の友達たち。逃げたはずだったメリープたち3匹が、まるでゴンベを守るようにライコウの前に立ちふさがった。私が唖然としている中、ライコウは一瞬戸惑ったように動きを止めたけど攻撃をやめることはなくて。放たれた電撃はメリープたちの足元に飛び、地面をえぐってメリープたちを吹き飛ばしてしまった。
「あ、ぁ…」
横たわったままのゴンベに、少し離れたところに転がるメリープたちを見て、思考がまともに働かなくなった。
どうしてこんなことになっているんだろう、私が守りたかったものは、遠くになんてなかったはずなのに。いつも私を頼ってくれて、支えてくれて、信じていてくれて…。
「いや…っ」
視界がぐにゃりと歪んで、頬に何かが伝うのがわかった。そう、リオはあの時、こんな気持ちだったんだろうか。
ライコウがゴンベに更に近寄ったかと思えば、突然飛び上がって少し離れた場所に着地した。そしてゴンベのすぐ傍に、別のポケモンが降り立ったのが見えた。
赤と黄色の体に、降り立った風でふわりと揺れる首飾り。あれは、リオのブーバーだ。
そう頭が認識した途端、自分の体が動き出す。傷だらけのゴンベに駆け寄って、すぐにきずぐすりを使ってあげてボールに戻す。それからメリープたちに駆け寄って地面に膝をついた。
「ごめん、ごめんね…」
俯いてメリープたちの頭を撫でてあげれば、地面に水滴が落ちているのが見えて。それが涙で、出どころは自分なんだってやっと気が付いた。謝る私に応えるみたいにメリープたちは小さく鳴いてくれて、それのせいでもっと胸が痛んだ。
「ポケモンとか人間とか」
最近ではもうすっかり聞き馴染んだ声が聞こえた。
「伝説とかお偉いさんとか関係ない」
顔を上げれば月が雲から顔を出して、声の主とライコウ、私たちを照らした。
「女の子を泣かせるようなことしちゃいけないんだぜ、ライコウ!」
怒っているような表情で立っているリオの隣には、モココの姿もあった。そのモココもいつもは絶対見ないような険しい顔をしていて、ぐっと拳を握っている。ブーバーがリオの隣に並べば、威嚇するように口から炎を吐いて見せた。ライコウはそんなリオたちに臆するなんてことはなく、むしろかかってこいと言わんばかりに放電する。
「ブーバー、眠気なんて吹っ飛んだだろ?遠慮なんていらないぜ!」
「ブーバッ!」
「モコッ!」
「よっしゃ、モココわたほうしだ!」
リオが指示を出せばモココが身を震わせてたくさんのわたを空中に漂わせる。それはライコウの周りを取り囲み視界を塞いでいく。素早いライコウが視界を確保しようとそのわたの中から飛び出してきたところには、もうブーバーの姿があった。
「ブーバー、ほのおのパンチ!」
炎を纏ったブーバーの拳はライコウの腹部に直撃した。しかし空中で態勢をすぐに整えたライコウは着地すると同時に口から電撃を放つ。それを迎え撃つようにモココの電撃とブーバーの炎が放たれ、三匹の間で相殺された。
激しく繰り広げられるバトルにうまく働かない思考のまま呆然としていたけど、持っていたモンスターボールが震えるのがわかって我に返る。ゴンベが、ボールから出たがっているみたいだった。
「戦い、たいの…?駄目よ、アンタはもうたくさん頑張ったじゃない…」
さっきよりも力を抑えていないライコウの放った雷が強い風を吹かせる。座ったままの私の力がちゃんと入ってくれない手からボールが転がって、地面に落ちたと思ったら赤い光と共に傷だらけのゴンベが出てきてしまった。
ゴンベは私を見上げて力強い目をして頷けば、バトルが繰り広げられている方を向いた。
「ゴンベ、お願いだから、ボールに戻って」
これ以上、傷つけてしまったら…どうなるのか怖かった。ボールを拾ってゴンベのほうに差し出そうとすれば、その手首を誰かが掴んだ。
「ルエノ、ゴンベは戦える」
いつの間に傍に来たんだろう、リオだった。掴んだままの私の手首をそっと下ろさせ、真っ直ぐにゴンベを見ていた。あの傷だらけの体を見てリオはなんとも思わないんだろうか、ブビィの時と同じに感じないんだろうか。
「あの時とは違うだろ?」
そんな私の考えを打ち砕くようにリオは言葉を放った。
「だってゴンベは自分の足で立ってて、あんな意志のある目をしてるんだぜ!あとはルエノが信じてやれば、アイツは戦える!」
そう言って笑ったリオの顔が、眩しく見えた。
そうだ、私を頼ってくれて、支えてくれて、信じていてくれたこの子たちを、私は頼って、支えて、信じてあげていただろうか。ふと思い出したのはエンジュのジム戦の後、少しふてくされたようなゴンベの表情だった。あれは、もっと頼ってほしいというゴンベの気持ちの表れ、だったんだろうか。
「…私はね、リオ」
溢れる感情を止めることなんて、出来なかった。
「アンタみたいに見えるもの全部を受け止めて、どうにかしたいなんて懐の大きさないのよ」
ゆっくり立ち上がって、まだ離れたところで戦いを繰り広げているポケモンの中の一匹、モココを見た。そしてメリープたちに視線を巡らせてから、ゴンベを見下ろす。
「ただ…この腕を伸ばせる場所の子たちだけを、守ってあげたい、それだけなのよ」
私が旅を始めたのは、今ジム巡りをしているのは、あの、過ちを犯したのは。
「友達を、失いたくないから…いつも一緒にいてくれたみんなを、守りたいの」
強がることで自分を保つことを覚えてしまった私は、きっと誰よりも臆病なのかもしれない。でも、そうよね、自分だけがしっかりしたって、どうしようもないこともある。
相手を頼って、信じてあげる勇気をもたないと。
「ゴンベ、アンタもその中の一人よ。ずっと守ってあげないとって思ってた…でも…頼っても、いいよね?」
震える声を抑える為拳を強く握れば、振り向いたゴンベの表情にその力が抜けた。
「ゴンッ!」
凄く、嬉しそうな顔をしていたんだ。だから思わず緩んだ涙腺を誤魔化すように頬を両手で叩けば、しっかり地に足をつけてライコウたちのほうを睨みつける。
「ここまでされて我慢なんて出来ないわよ!これ以上みんなを傷つけさせないから!」
「ゴンゴン!!…ゴ?」
バトルが繰り広げられている方に駆けだそうとした瞬間だった、足元のゴンベが突然眩しい光を帯びた。それには離れていたポケモンたちも気付いたようで、ライコウすらブーバーとモココから少し距離をとって警戒するようにこちらを見ている。
「この光って…!」
「メリープの時と、同じ…」
ゴンベを包み込んだ光は少しずつ質量を増して大きくなっていく。私より小さかった光は見上げるほどになって。月明かりに照らされて現れた私の友達は、凄くたくましい姿へと変わっていた。
「進化したんだ…!ルエノの気持ちが通じたんだな!」
「こんな大きくなって、もう、体全部投げ出しても受け止めてもらえるわね」
そっと手に触れれば、優しく握り返してくれた。そして細くなった目と大きな口でにっこり笑いかけてくれて、不安なんて吹き飛んだ気がする。
ライコウのほうを向けば、体の大きなポケモンが増えたことによって不利を感じたのか少し後ずさりしているのが見えた。
「まだやるのかしら?」
カビゴンがやる気満々で片手でつくった拳をもう片手で当てて音を鳴らせば、少し疲れた様子だったブーバーとモココも隣に来て威嚇をする。
ライコウはふと家の方向を見た。強めの北風が吹いて、そのたてがみを揺らす。するとライコウは一鳴きすると同時に踵を返し、森の中へと駆け去って行った。
「…なんとかなったな」
リオが力が抜けた声でそう呟けば、お疲れさん、とブーバーと拳を合わせていた。モココが駆け寄ってきたから腕を広げれば飛びつくように抱き付いてきて、泥だらけの体なのにすりすりと擦り寄ってくる。
「モココ、ありがと、頑張ったわね」
「モコーっ」
モココから腕を離して、隣にいたカビゴンを見上げる。頬を爪でぽりぽりと掻いていて、大きくなってしまった自分に戸惑っているようにも見えた。
「カビゴン、アンタもありがとう。大好きよっ」
思いっきり飛びついてやればやっぱり微動だにしない体で。でも嬉しそうに私の頭を優しく撫でてくれたカビゴンがとてもたくましく思えた。
「ゆっくり休んでね」
カビゴンをボールに戻してやって、私は自力で隅っこに逃げていたメリープたちに駆け寄った。自慢のふわふわの毛が痛んでしまっている。
「モココ、ブーバー、この子たちを小屋に連れて行ってあげてくれない?」
「モコー」
「ブーッ」
頷いた二匹はメリープたちを連れて小屋のほうに歩いて行った。それを途中まで見送って、私は戦いの跡が残る地面に座って夜空を見上げていたリオに近寄る。
「こんなにしちゃって、明日怒られるよな」
「大丈夫よ、わけは私が話すし…」
座ったままのリオの隣に立って、私も空を見上げる。少し欠けた月とたくさんの星が空を彩っていて、先程までのバトルが嘘みたいに静かだ。
だから、頭の中をすっきりさせるにはちょうどいい機会だと思った。
「信じて…支えてあげなきゃ、よね」
「友達ならなっ」
リオは太陽みたいだ。溶けるはずがないって思っていた大きな氷が、徐々に綺麗な水になって溶けていく。その暖かな陽だまりの中でずっと包まれていたいような気分になって、けれど見えてほしくないところまで照らしてしまう。照らされたところは自分がすごく嫌なものだったはずなのに、そうして見てみると気にしていたのが馬鹿馬鹿しくなるみたいで。
「私、決めたの」
「何を?」
声を出せば絶対に応えてくれる、受け止めようとしてくれる。私の根の汚さでこの人の優しさを利用してしまうような気がした、それが今まで怖かった。でも、友達なら信じる、なのよね?
「打ち明けようと思うの、誰にも話したことのないこと」
私を投げ出さないで、叱ってくれることを、信じて。
「でもその覚悟を決めたばかりで、いつ話すかはわからない」
モココすら知らない、誰にも言わないで隠し通そうと思っていたことを、話そうと決めたから。
「だから…話す時がきたら…ちゃんと、聞いてくれる?」
お母さん、お父さん、私ちゃんと人間の友達が出来たの。
「勿論、ルエノが聞いてほしいなら」
陽だまりみたいな笑顔で、私を信じてくれる友達が。








「気を付けるのよ?またいつでも帰っていらっしゃい」
「わかってるわよ、娘だもの遠慮しないわ」
牧場の入口、俺たちはアサギシティを目指す為牧場から出ようとしていた。見送りはルエノのお母さんとメリープたち。ルエノの少し跳ねていた髪をルエノのお母さんは優しい手つきで整えて、それにルエノは少し恥ずかしそうにしていた。
「また、ね」
ルーは柵越しにメリープたちの頭を撫でて挨拶しているようだ。すっかり仲良くなったみたいでゴースもメリープたちの頭上を飛び回っている。
「それにしても…」
ルエノを見ればいつもと変わりない様子だった。
昨日の夜、打ち明けることがあると言ったルエノ。俺は座っていてルエノは立っていたから表情は伺えなかったけど、途中から声が震えていたのがわかって。もしかしたら泣いているのかも、とか思ったらどうしていいかわからなくなった。ライコウに泣かされていたルエノを見たときの怒りとは違う、切なさのようなものを感じたんだ。何かを抱えているのはわかったけど、それをいつルエノが話してくれるかわからない。もやもやしたものが残った気がする。
「でも…信じて、支えなきゃ、だよな」
昨晩のルエノと同じことを言ってみた。話すって言ってくれたんだ、それを信じて待つことが今の俺に出来ること。ふと服を引っ張られそっちを見ればブーバーで、今の俺の言葉に反応したのか自分を指さして首を傾げている。自分はどうなんだってことだろうか?
「勿論、お前のこと頼りにしてるし、信じてるからな」
笑って小突いてやれば何故か腰に手を当てて偉そうにされた。
「夜のブーバー、かっこよかったぜ!ライコウのとっしんをかわしてからのほのおのうずとか!」
「ブーバブー」
もっと褒めろ、と言わんばかりに鼻息荒くするブーバーを見て笑っていると、ブーバーの背後からモココが現れてブーバーを押しのけて俺を見てきた。どうやらモココも褒めてほしいらしい。
「モココも、あのライコウに引けを取らない電撃だったぜ!」
頭を撫でてやれば興奮したようにぐっと拳を握りルエノのほうに走っていってしまったモココは、そのままの勢いでルエノに抱き付いた。
「な、なんなのよ突然っ」
「ふふ、仲良しさんねぇ。ほらこれ、みんなで飲んでね」
「ありがと、お母さん」
大きめの紙袋を受け取ったルエノ。袋には大きくモーモーミルクと書いてあった。それにルーが興味津々なのか袋をじっと見つめている。
「マルルーモちゃん、また一緒に料理しましょうね?」
「…!うん…!」
料理が楽しかったんだろうか、ルエノのお母さんの言葉に元気に頷いたルー。ゴースもルエノのお母さんには気を許したみたいで、ルーの頭の上に乗ってにこにこしていた。
「それじゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
手を振るルエノのお母さんに手を振り返して、俺たちは39番道路に出た。そしてアサギシティに伸びる道を真っ直ぐに歩いていく。
「アサギにもジム、あるんだろ?」
「あるわよ!確かジムリーダーははがね使いだったはず…対策しないとね、モココ」
「モコ!」
すっかりいつものルエノで、安心して笑顔になる。ルーもぐっすり寝たからか元気で、またあちこちのものに興味を示しているみたいだ。ガイドブックを見ながら歩いていて、たまに視界に捉えたものをじっと見ている。
「とう、だい…って、なに?」
「アサギの灯台か?港町だからな、船がたくさんあるんだ。夜でも港だってわかるように明かりをつけるところだぜ」
「確かその明かり、ポケモンのデンリュウなのよね。会いに行くこと出来るみたいよ。あとアサギって言ったら、美味しい魚貝類よねぇ」
「美味しい…!」
ルエノの言葉に反応したルーが少し高揚したように繰り返した。モココもルエノの隣で涎を垂らしてぼんやりしている。
俺もだけど、みんな賑やかな港町が楽しみで歩く足も軽やかだ。
ふと空を見れば澄んだ青に真っ白な雲。本日も晴天なり!






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