吸血鬼とメイド。




「こんにちはー…」
恐る恐るその玄関の扉を開けると、カランカランと扉に付けてあった鈴が鳴った。一瞬その音にビクッと震えたが、その音の直後に誰かが階段から降りてくる足音も響いてきて、緊張という意味で足が震えた。
「はーい、どちらさまですか?」
階段から降りてきたのはスーツ姿がよく似合う青年のように、爽やかなイメージをもたせる人で、このお屋敷の主様にぴったりな方だと思った。思わずかっこいい…、と口に出してしまいそうになって慌てて口を紡ぐ。
「あ、あの、今日からこのお屋敷で働かせていただく事になった鏡音リンと申します…!」
興奮のあまりつい声が上擦ってしまった。しかしそんな私を落ち着かさせるかのように、その人は優しく微笑んで見せた。
「うん、聞いてるよ。今日からうちの住み込みメイドになる鏡音リンちゃん」
ニコリと向けられたその笑顔がとても素敵だった。
リンちゃんって言われた…!
自分の顔がみるみる赤くなっていくのが分かる。
こんなカッコいい人がこの屋敷のご主人様だなんて!
心の中は花畑状態に陥った。
が、しかし、私の夢はこの先すぐに崩れる事になる。
「何の用だ?」
「え…っ」
急に後ろから声がして私はびくっと震える。振り向けば、すぐ後ろにとても美人な顔をした男の子が立っていた。私より背はちょっと小さいけれど年齢的には同い年かそこらで、髪は金髪。後ろで結っていて、瞳は吸い込まれそうな深い青色。しかしその綺麗な瞳で私を見る目はとても怪訝なものだった。
「お前に訊いてるんだよ」
「え、私?え、ああ!今日からここで働かせていただきます、鏡音リンです…!えっと…」
くるりと振り返り、先ほどのお兄さんの方に目を戻して訊いた。
「お子さんですか?」
「はぁ…?」
「ブッ…」
私の質問にお兄さんは吹き出し、そのまま爆笑を始めた。そんなお兄さんを制するかのように男の子はお兄さんを鋭い目で睨んむ。するとそれに気付いたのか、お兄さんはコホンと咳払いをひとつ。
「初めまして、鏡音リンちゃん。僕はカイト。この家の執事。」
ああ、だからスーツなんだ…。有能そうな執事さんだなぁと思ったところで、じゃあこの屋敷の主様はどこにいるのだろうかとも同時に思った。
「そしてリンちゃんの後ろにいるのがこの屋敷の主人であるレンぼっちゃんですよ。」
私は言われた通り後ろを振り返ってみるが、実際後ろに立っているのは先程の男の子だけ。私はおかしいな。と思い一度目を擦った。しかし何度振り返ってみても主人らしき人はどこにも見当たらない。はて、どういう事か。
「その金髪のお坊ちゃまがレン様ですよ。」
「え…!こんなちっちゃい子がですか!?」
はっ、と気付いた時には遅かった。レンぼっちゃんと呼ばれる屋敷の主人は恐ろしいほど良い笑みを浮かべてこう言ったのだ。
「お前、クビになりたいのか?」
思い出すだけでも恐ろしい。



「じゃあまずは毎日の主な仕事内容を紹介するね」
ニコリと笑った執事のカイトさんは、やはり本当はこの綺麗で広いお屋敷の主人なんじゃないかと未だに疑ってしまうほど爽やかな人だった。
「まずは洗濯と掃除だね」
洗濯物は男の下着を干すのは嫌だろうから、自分のだけはきちんとね。と言うことだった。
掃除は廊下にモップをかけたり棚の埃を落したり、などと説明を兼ねて屋敷内の案内もしてもらった。やっぱりこのお屋敷は綺麗で、綺麗なのは見た目だけではなく、やはり清潔という面でも綺麗にされていた。カイトさんが一人で掃除してるのだろうか、何故こんな広いお屋敷に2人きりだったのだろうか。結局は苦労してるんだろうなぁとかよく分からない考えに到った。
「次に献血。これは出来れば毎日やってほしいんだ」
「え…、けんけ、つ…?」
今まで働いてきた中でもこんな仕事は頼まれた事がなかったから、思わず目が点になってしまった。
え、だって献血って注射さされて血をとられるって事でしょう?
「うん、献血。」
カイトさんは当たり前の事を言ったかのようににこっと笑うから、それ以上は質問をしづらくなってしまった。
ただ私はとても注射が苦手だったから、これから先、それだけはずっと悩むはめになる。

「あとは夕食や昼食、住み込みだし朝食もお願いして良いかな?」
「はい!任せて下さ」
い。料理には自信があるので!と言おうとしたところでバァンっとキッチンの戸が勢いよく開く音が響く。
「おい…、どういう事だよ。」
この屋敷の主であるレン様だった。息を切らしているから、わざわざここまで走ってきたようだ。
「どうなさったんですか、レン坊っちゃん」
「どうなさった、じゃねぇよ。お前、あの引越しセンターのトラックは何なんだ。今度のメイドが住み込みなんて俺は聞いてないぞ」
「言ったら坊っちゃんはどうせ反対するでしょう?だから言わなかったんです」
「当たり前だろ…!」
振り返ったレン様にギロリと睨みつけられる。ちっと舌打ちをすると「どうせすぐ辞めるだろ」と独り言のように呟かれた。
私はただポカーンと口を開いたまま、部屋を出ていくレン様を眺めていた。


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