食べられる。
そう思わせるような口付けだった。
頑なに閉じた私の唇は抉じ開けられ、攻め入る舌から逃げようともがく。しかし絡めとられ、そのあとはただ、翻弄される。


「……っ、ん…」


息ができない。
酸素を求めて口を開けても、求めるそれは入ってこない。好都合とでもいうように口腔内で暴れるそれに対し、私はどうすることもできない。
くらくらする。それは酸欠が原因か、それとも別の何かか。すっかり逆上せ上がった脳みそは、すっかり思考を停止させた。


「…っおい、」
「は、ぁ……っ」


力を無くした体は重力のまま、地面へ向かう。それをいち早く察したクロコダイルさんが、私の体を支えた。


「情けね ェな、このくらいで力が抜けるとは」
「あ、あなたと一緒にしないでくださいっ」

きっと私の顔は真っ赤なのだろう。クハハと笑う彼は変わらず余裕そうで、更に私の羞恥心を煽った。
こんな口付けは、初めてだった。あの時のだって、こんなに激しくは無かったはずだ。


「お前がいつまでもここに来ねェからだ」
「え」


ドキリ。
一時忘れていた、クロコダイルさんの思わぬ言葉に表情も声も取り乱した。
そんな私の変化を彼が見逃すはずもなく、鋭い眼差しで私を見た。


「……なんだ?」
「いや、何もないです!」
「嘘は良くねェなあ……?」


まるで私は蛇に見込まれた蛙。
私の体を支えていた太い腕は、逃がさないとでもいうようにがっちりとホー ルドされている。
私はすべてを諦めた。いや、諦めさせられた。


「……ポケットにいれてたら、忘れて、」
「そのまま洗濯か」
「は、はい」


チラリとクロコダイルさんの表情を見遣る。

「ほぉ……?」
「……っ!」


完全に、面白がっている表情。
私の失態を好都合とでもいうように、口元を歪ませて意地悪な笑みを浮かべている。


「ご、ごめんなさい!」


ヘタに反抗したらきっと痛い目をみる。そう考えた結果、素直に謝罪の言葉を口にした。


「……やけに素直だな」
「……」


許してもらえただろうか。
固まった体から少しだけ緊張がほぐれる。しかし、その瞬間強い力に引かれた。


「……わっ……!?」
「面白くねェな」


ボスン!と音を立て、高そうなベッドに沈む体。逃げる間もなく私の体にクロコダイルさんが跨がる。


「ちょっと、!」
「お前にはもっと、反抗してもらわねェと―――」


クロコダイルさんの鼻先が私の首筋をくすぐる。耳元で低音が響いて、体が反応してしまう。


「……っ…!」
「いじめ甲斐がねェだろう?」


クツクツと笑いながら、クロコダイルさんは私の服に手をかける。シャツをズボンから引き抜かれ、大きな手が背中を這う感覚に身体が震えた。


「っ、クロコダイルさんっ」
「なんだ」


"待って"
そういう意味を込めて彼の名を呼んだのに、彼は気付かないまま、否気付いてるんだろう。気付きながらも、私の肌を滑る手は止まりそうになくて。


「……やぁ、ッ」
「…嫌ァ?よく言う」


ーーーイイ顔してるぜ?
背中に何かが駆け抜けく。
ああ、私はこの人のこういう声と、顔に弱いんだと実感させられて、白旗をあげるように抵抗する気持ちが萎えて行くんだ。


「クロコダイル、さん」


好き。だから、恥ずかしい。でも、触って欲しい。一瞬でも、同じ時間を共有したい。
そんな思いを込めて、クロコダイルさんの袖を握りしめた。
















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