こんな気持ちになったのは初めてだった。まともに恋をしたことが無いからこそ、分かる。今まで味わったことのない気持ちだから。
私は、貴方が好き。
「好きです、」
そう言ってから、ハッとした。
クロコダイルさんが私を抱いたのは、ただの気まぐれかもしれない。年も経験も今までの生き方も価値観も、全て違う。それに、彼からすれば私は子供だ。でも、
「名前…」
そこまで考えて、でもそれでも良いと思った。遊びだったとしても、良いと思った。好きだから、想いを告げることができればそれで…
「ごめんなさい、あの、私、」
「名前、」
彼の、一瞬困ったような顔を見てしまって、思わず俯いた。彼が足を踏み出すと同時に軽く床が音を立てて、それがやけに頭に響く。
何を言われるんだろう。そんなことを思っていると、私の意に反して、身体が傾いた。
「……え…、」
なんだこれは。私は今、どうなってる?
状況を瞬時に理解することは出来なかった。でも、肌に感じる温かさと、鼻腔に入る香りが、伝わる。私は、抱き締められている。
「名前、よく聞け」
「は、い」
私の耳のすぐそばで、低い声が響いた。
「俺は、どうでもいい女の働いてる店に何度も行ったり、部屋に上がり込んだり、抱き締めたりはしねェ。ただ抱くための女なら、娼館に行けば事足りるし、ヤるだけならホテルへ行けばいい。わざわざ抱き締める必要もねェ」
「な、何言って…!」
いきなり何を言い出すんだ。
驚いて思わず身体を離したけれど、腕は掴まれてまま、私を射抜くように見つめる目に、動けなくなる。
「…それがどういう意味なのかは、分かるだろう?」
「―――………、」
これは、ふざけたりからかったりしているんじゃない。私は、その真面目な目を見てそう思った。そして、自惚れても良いのだと。
「名前、」
「…はい、」
分かります。
そういう意味を込めて出した声は、無事に彼の耳に届いたようだった。
彼の大きな手の平が、私の頬に触れる。
「…クロコダイルさん…」
安心するような、落ち着くような、その温かい手に思わず名前を呼んだ。この手に触れられると涙が出そうになるくらいに幸せを感じる。
「――…目を閉じろ」
好き、この人が好きだ。
罪人でも悪党でも海賊でもなんだっていい。この人の優しさは、私が知っていればいい。
触れた唇も手も全てから愛情を共有した。
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