キミとXmasE



「全く……、あの子ときたら。」


眉間に深い皺を寄せたサガは、右手の親指と人差し指の腹で、その皺をグッと押さえるように摘んだ。
グリグリと眉間のツボを押すが、肩も頭も重い。
外は既に薄闇に包まれ始めているというのに、山と積まれた仕事に終わりは見えない。


「報告書のミス?」
「あぁ。本当に幾つになったらマトモに報告書が書けるようになるのだろうな、あの子は……。」
「青銅? 白銀?」
「いや、黄金だ。」


だから、呆れているんだよ。
そう言って、深い深い溜息を吐くサガ。
溜まった疲労のせいか、すっかり鬱モードの様子だ。
しかし、サガにかかれば黄金聖闘士ですら『あの子』扱いになるのかと、アレックスは苦笑いを浮かべて、そんな彼を見遣る。


「今日くらいは仕事の事を忘れたら? クリスマスなんだし。」
「だからと言って、処理しなければならない書類の数が減る訳じゃない。浮かれ、はしゃいでる場合ではないだろう。」


何しろ同じ教皇補佐のアイオロスが、日本滞在のため長期不在中。
勿論、アテナの命令によっての派遣だが、そのためにサガが処理しなければならない書類の量が倍増しになってしまった。


「パーティーは? あと二時間後だけど、仕事、終わりそう?」
「悪いが行けそうもない。アレックスだけでも顔を出してくると良い。何もキミまで、無理して仕事に付き合う必要はないのだからな。」
「貴方が行かないのなら、私が行く意味もないわ。」


黄金聖闘士と女官とはいえ、彼とは古くからの付き合いだ。
しかも、今ではサガ付きの専任女官として働いているような状態にあるアレックス。
彼を放って、自分だけクリスマスパーティーを満喫するなんて考えられないと思う。


「仕事を止めないなら、せめて休憩を取りましょう。丁度、アフロディーテが気を利かせて、クリスマスケーキを二人分、切り分けて持って来てくれたのよ。」
「……ケーキ、か。」
「ワイン葡萄から作られたジュースもあるわ。皆より一足早いけど、これで乾杯しましょう、ね?」
「……分かった。少し休もう。」


サガの言葉を聞き、アレックスは慌ててお茶を淹れに走った。
うかうかしていたら、またサガが仕事を再開してしまうかもしれない。
温かいコーヒーと、作り立てのケーキをトレーに乗せて、アレックスは直ぐにサガの元へと戻った。


残業中のサガのため、特別に大きくカットされているのか、それとも、皆が皆、この大きさにケーキを切り分けられたのか。
前者であれば良いと思いながら、アレックスはケーキの皿を手渡す。
美しいマーブル模様を描くコーヒーから立ち上るのは、温かな湯気とフワリと鼻孔を擽る良い香り。
ゴクリと一口、啜ったコーヒーは疲れた身体に染み入るようだ。
そのままケーキへフォークを突き立てようとした瞬間、だが、サガの動きがピタリと止まった。


「どうしたの?」
「アレックス、これを見ろ。これは栗ではないな?」
「どれどれ……、って本当ね。何かしら、これ?」


皿を翳して繁々と眺めるのは、ケーキの上に乗っている、本来はマロングラッセである筈の何か。
一瞬、栗に見紛うように粉砂糖を塗して細工されてはいるが、大きさも形状も明らかに栗とは違う。
大きくコロンとした形、粉砂糖の内側に見える淡いクリーム色の、これは……。


「……シオン様のキャンディー。」
「え?」
「クリスマスの贈り物として、黄金の皆に配ったそうだ。私は辞退したのだが、遠慮なく受け取れと、無理に手の中に押し込まれて……。」


幼い頃を思い出すキャンディー。
最後の一つを、アイオロスに奪われた事もあったが、逆に奪った事もあった。
全てが懐かしい思い出。
しかし、コレがケーキの上に乗っているという事は、アフロディーテの奴め、私を騙そうとしたのか?


「大方、栗が一つ足りなかったのでしょう。疲労困憊のサガなら、気付かないとでも思ったんじゃない?」
「ふん。良い度胸だな、私を謀(タバカ)ろうとは……。だが、クリスマスに免じて今日は許しておいてやろう。」
「そうそう、クリスマスだしね。」


サガは苦笑混じりの小さな溜息を吐くと、シオンのキャンディーをそっと除けて、ケーキにフォークを通した。
甘いブッシュ・ド・ノエルに舌鼓を打ちつつ、粉とクリームに塗れたアフロディーテの顔を思い浮かべる。
整った見た目とは裏腹に、実は不器用な彼に、何故、ケーキ作りが任されたのかは甚だ疑問であるが、あの子が慣れない作業に四苦八苦する姿を想像するのも、また楽しいものだ。


不意に窓の外に視線を送ると、夕方と夜の境界線にある薄暗い空を、ひらり、白い何かが飾っているのが見える。
朝から強い寒気に覆われていた聖域だが、遂に、白い粉雪が舞い始めていた。


「アレックス、雪だ。」
「ホント、綺麗ね。」
「積もってしまう前に、自宮へ帰れれば良いのだが。」
「帰れなくなったら、ココに泊まれば良いのよ。勿論、私も一緒だけど。」


悪戯っぽい目でウインクをしたアレックスと目が合い、サガの頬が僅かに染まる。
だが、それも悪くないと、直ぐに彼は口元に薄い笑みを浮かべ、ケーキを口に運んだのだった。



聖なる夜に粉雪の舞う



‐end‐





サガはクリスマスでもワーカホリックが鉄板w

2013.12.22


→???


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