俺様暴君な彼からの贈り物



「よぉ、アレックス。ちょっと来い。」
「でっ……、デスマスク様っ?」


遂に、捕まってしまった……。
研修が終わってからというもの、迂闊に声を掛けられないようにと、ずっと気を付けていたのに。
こちらに近寄ってくる気配すら感じられない日が続いたせいもあって、すっかり油断してしまった。


「なンだぁ、その不満そうな顔は?」
「いえ、何でもありません。どうぞお気になさらず。」
「気にすンだろ、何でもある顔してるクセして。そンなに俺に構われるのが嫌か? あ?」
「嫌とか、そういう話では……。」


えぇ、嫌ですよ、嫌です。
分かっているのなら、私に構わないでいただきたいのですけれど。
そんなに私が嫌がる顔を見たいの?
それとも嫌がらせがしたいの?
イビり倒したいの?


大体、どうしてデスマスク様までが、自宮に女官の配置を望んでいるのか。
自分一人で何でも出来て、その他にする事といったら、女官に対してお小言を告げるだけなのだから、女官など置かない方が、無駄な文句を吐かずに済むというもの。


「取り敢えず、ソレ。半分、運んでくれ。資料室に仕舞わなきゃなンねぇンだ。」
「あ、はい。……って、これ。随分と軽いですね。」
「おう、確かに軽いンだがな。幾ら聖闘士といえど、こンなに山積みじゃ、量的に持てねぇ。」


確かに、これだけ沢山あれば、一回で運ぶのは無理だと思う。
それにしても、こんなに大量の資料を、何に使ったのだろうか。
などと考えていたら、デスマスク様が必要としていたのは、この中のホンの一部で、残りは全部、サガ様がデスク回りに積み上げて、放置していたものだと聞かされた。
サガ様がお忙しいから、代わりに片付けを買って出たという事かしら。


「違ぇよ。そのまま放っておいたら、執務室が資料で埋まっちまうだろ。俺が邪魔だと思ったから片付けンだ。」
「それって、照れ隠しですか?」
「アホか。仕事環境は快適に限るって事だっての。俺は自分のためなら努力は惜しまねぇの。」


そうこう言いつつ、資料室へと辿り着く。
そして、ヒョイヒョイと慣れた手付きで資料を元の場所へと戻していくデスマスク様。
これは、ただの片付け好きなのか、綺麗好きなのか、それとも、世話焼きなのか。
こうして見ていると、どれも当てはまるのかなと思えてくる。


「あぁ、そういや、アレックス。宮付き女官への採用が決まったってな。良かったじゃねぇか。」
「あ、はい。ありがとうございます。あの……。」
「なンだ?」
「デスマスク様も、宮付き女官の配置を希望されていると聞きましたが……。」


こう言っては何だけれど、彼の横暴な性格では、どんな女官だろうと長くは居着かないだろう。
誰もが逃げるように職を辞してしまうに違いない。
そもそもデスマスク様の宮への配置など、他の宮に女官の空きがあるならば、絶対に希望しない。
そうと分かっていながら、どうして研修中の女官に厳しい言葉を投げ掛け、罵倒し、やる気を根こそぎ奪ってしまうのだろうか、この人は。


「オマエね。他の宮で甘やかされてイイ気になってたンだろうが、あンな状態じゃ、どの宮に行ったって役に立たねぇぞ。配属された先で、最初は楽しくヤれるかもしンねぇ。だが、直ぐに泣きをみる。それからじゃ遅いって事だ。」
「つまり御自分が嫌われ役を請け負って、女官として使える人材を育成しようとした、と?」
「俺がンな事するかよ。勘違いすンな、アレックス。後々、あのヤロー共に、なンでちゃんと教え込まなかったと、責任転嫁で怒鳴られンのが嫌なだけだ。」


どれだけ素直じゃないのだろう、この人は……。
だけど、こうして彼の本心が読み取れるようになれば、他の誰よりも相手の事を心配し、相手のためになるように動いている事が分かる。
この資料の事もそうだし、私に対する厳し過ぎる指導も、そうだったのだろう。
ただ、その評判の悪さや、捻くれた物言いなどから、『俺様暴君な人』だという印象を与えてしまっているが故に、彼の努力は正当に評価されないのが事実。


「ドコの宮に勤めるか、もう決めたのか、アレックス?」
「いえ、まだ……。」
「ま、どの宮に行こうと希望が叶ったンだ。良かったじゃねぇか。」


手に持っていた最後の資料を書棚に戻し、クルリと振り返ったデスマスク様。
その顔に浮かんでいた、彼にしては珍しいニヤリとしていない柔らかな笑顔に、私は思わず目をパチパチと瞬かせた。


「おめでとさん、アレックス。良く頑張ったな。」


そう言って、擦れ違い様に頭をクシャッと撫でられた。
その感触が擽ったいようで、ポカポカと温かいようで。
資料室から出ていく後ろ姿を、思わずジッと眺めてしまった。



彼がくれたもの、それは
おめでとうの言葉だけ



‐end‐





我らがデス様は俺様暴君にみえて、実は、面倒見の良い照れ屋な男だと萌えます、私がw
あと、サガ様は、デス様が勝手に資料を戻している事に気が付いていない程の、仕事集中っぷりを発揮していると思いますw

2014.10.20

→さぁ、貴女は誰を選ぶ?


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