8.予期せぬ出来事



パーティー会場に足を踏み入れると同時に、左右に目を走らせた私の視界に飛び込んだのは、誰よりも美しく輝くアテナ様のお姿だった。
優雅でたおやかで、それでいて凛とした立ち居振る舞いは、目を見張るばかりの輝きを放っていて。
その真っ白なドレスは、会場を彩るどんな色彩よりも艶やかに浮かび上がり、眩しい照明の光の輪の中で、ひと際、人目を惹いていた。


「……いるぞ。」
「う、うん。」


耳元に小さく囁かれたシュラの声に、身体がピクリと反応する。
誰が、何処に?
そんな事を聞き返す必要もない。
私の瞳は既に、アテナ様の直ぐ後ろに控えていたアイオリアの姿を捉えていたから。


「シュラ……。」


彼の名を呼び、服の袖を掴んでキュッと握り締める。
不安に揺れる私の心を察して、シュラは腰に回していた手に力を入れ、抱き締めるように引き寄せてくれた。
身体の右半分をシュラに預け、長い息を吐きながら、視線はアイオリアから外さずに、もう一度、彼の名を呼ぶ。


「シュラ……。」
「アレックス、心の準備は出来たか?」
「ん、大丈夫。ありがとう。」


ここまで来たからには、後は前へ進むだけ。
私は視界にずっと捉えて続けていたアイオリアを、そのまま瞬きもせずに見つめていた。
すると、スッと音もなく彼に近寄る影。
穏やかな笑みを浮かべたアイオロスだった。


アイオロスは後ろからポンッと小さくアイオリアの肩を叩き、その前を通り越すと、アテナ様に向かって恭(ウヤウヤ)しく頭を下げる。
そして直ぐにまた、アイオリアの傍へと引き返した。
見つめている私の視界の中で、アイオリアに話し掛けているアイオロス。
笑顔で何やら言葉を交わすと、再びアイオリアの肩をポンと叩く。
それを合図に、アイオリアはアテナ様の傍を離れ、パートナーの女官の子を伴って、賑やかな人の輪に溶け込んだ。
アテナ様の横には、入れ代わりにアイオロスが控えている。


「アレックス。」
「うん。でも、まだ……。」


私はシュラの腕の中で、アイオリアの様子をジッと窺っていた。
パートナーの子を彼から引き離さない事には、アイオリアを誘い出せない。


「どうする? 暫く様子を見るか?」
「うん、きっとチャンスはあると思うの。」


すると、直ぐに動きがあった。
女官の子と話し込んでいたアイオリアに、アイオロスのパートナーの女官の子が近付き、何やらアテナ様の方へと指を向けて話し掛けたのだ。
そして、アイオリアのパートナーの子は、その子と一緒にアテナ様の方へと戻っていった。


「おい、アレックス。」
「うん、分かっている。」


アイオリアが一人になった今が、絶好の機会。
きっとアイオロスが手を回して、アイオリアのパートナーの子を呼び寄せたのだろう。
アイオリアが一人になるようにと……。


「心の準備は出来たか、アレックス?」


これ以上、ジタバタしても何も始まらない。
覚悟を決めた私は、寄り添うシュラを見上げて、ウンウンと力強く頷く。
そして、シュラは抱き寄せるように腕に力を入れると、私の額に『頑張れ』の意を籠めたキスを落とした。





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