キミとXmasB



「くあぁっ。」


デスマスクは広げていた分厚い書籍から目を離し、大きく伸びをした。
目を通していたのは数百年前の歴史書、某地方に伝わる伝承紛いの古歴史が細かく書かれている、歴史書というよりは資料に近いものだ。
年明け早々、彼はその地方に残された二代前のアテナによる封印を確認する任務に向かう。
その下準備の一貫として、資料の確認をしていた。
勿論、他の聖闘士には知られぬようヒッソリと。


「見つけましたよ、デスマスク様!」
「あぁ、アレックス?」
「やっぱり。絶対にココだと思いました、貴方が逃走するなら間違いなく!」


どうしてか彼女にだけは居場所がバレる。
巧みに逃げてサボタージュしている筈なのに、サガにもシュラにもアフロディーテにも見つけられない自分を、いとも簡単に捜し出してしまうアレックス。
昔から不思議に思っていたが、きっとコイツだけは自分の行動を完璧に読んでいるのだろうと、デスマスクは心の中で結論付けた。
じゃないと、アレックスの鋭さの意味が理解出来ない。


「オマエな……。ココ、何処だか分かってンのか?」
「書庫の中……、です。」
「ちゃんと分かってンじゃねぇか。だったら声を抑えて静かにしろ。ココは大声を出してイイような場所じゃねぇ。」
「すみません、でした……。」


呆れの溜息を吐くデスマスクに向かって小さく頭を下げた後、アレックスは腕に抱えていた段ボール箱を、広げられた分厚い歴史書の横に、そっと置いた。
箱からはみ出しているキラキラしたモールを見れば、それが例のリース作りの材料だと分かる。
デスマスクはチッと小さく舌打ちをして、広げた歴史書を書棚の元の位置に戻した。


「デスマスク様。調べ物は、もう宜しいのですか?」
「ヨロシクはねぇが、ソッチの方が先にやンなきゃなンねぇだろが。オマエ一人じゃ終わンねぇンだろ?」
「それはまぁ、そうですが……。」
「なンだ、アレックス。その気の抜けた返事は?」


正直、ココまで追い駆けて来たは良いものの、デスマスクが素直に仕事を受けてくれるとは思っていなかったのだ。
だから、肩透かしを食らったような状態に陥り、アレックスは呆然としてしまっていた。


「オラ、とっととヤルぞ。十二個、いや、十三個か? 作って、各宮に持ってかなきゃなンねぇンだろ?」
「は、はい。そうです。」
「なら、急ぐぞ。」
「はいっ。」


十三個のリースは綺麗に飾りを付けた上で、各宮のプライベートルームの入口と、教皇宮のパーティー会場の入口に飾り付けなければならない。
時間がない、そう思って焦れば焦る程にアレックスの手は強張り、落ち着けば出来る事すら上手くこなせないでいた。


「アレックス。オマエ、不器用だな。」
「そ、そんな事はない――、って、デスマスク様?! 何ですか、それは?!」
「何って、どういう意味だ? あとオマエ、声デカ過ぎ。抑えろ。」
「はっ?! す、すみません……。」


デスマスクの手元を見れば、プロも顔負けの美しく華やかなリースが出来上がっている。
しかも、既に六つも。
使っている飾りは、あらかじめ用意された自分と同じ物の筈なのに、どうしてこうも差が出るのか?
その手先の器用さと、芸術的なセンスが羨ましく思える。


「デスマスク様って、本当に器用ですよね。料理もお上手ですし、それだけ出来れば、恋人も奥さんも必要ないんじゃないですか?」
「ンな事ねぇだろ。」
「デスマスク様なら、将来を誓った女性のために、ご自分で婚約指輪を作ってしまうくらいは、造作なくやってのけそうです。」
「褒めてンのか、嫌味言ってンのか、分かンねぇ言い方だな、オイ。」


でも、確かに、指輪作りはやってみても良いかと、デスマスクは少しだけ脳内で考えてみた。
正直、既製品の指輪、それがどんなハイブランドのものだとしても、自分の納得いくものが有るとは到底思えない。
だったら、納得出来るだけのものを、自分の手で作ってしまえば良いだけの話。


「アレックス、ちょっと指貸せ。」
「えっ? わっ!」


相手の返事を待たずして、アレックスの手を無理に引き寄せるデスマスク。
慌てる彼女は華麗に無視し、手元の作業に没頭する事、数分。
リースに使う針金と金モールをクルクルと巻いて細工をし、あっと言う間に出来上がったのは、左手の薬指を飾る『指輪もどき』だった。


「わ、凄い! 綺麗!」
「ま、こンなモンだろ。」
「流石はデスマスク様です。金モールで、こんな綺麗な指輪が出来るなんて……。」


うっとりと自分の指を翳して眺めるアレックスに気付かれぬよう、いつのもニヤリとした笑みを口の端に浮かべて。
そっと席を立ったデスマスクは、彼女の背後に歩み寄る。


「例え『もどき』だろうと、俺が自作の指輪を贈ったのはオマエだけだ、アレックス。意味、分かるな?」
「え……?」


耳元に囁かれた言葉に振り返る間もなく、耳朶に落とされた優しいキス。
今夜は離さねぇ、唇が離れる瞬間に、耳の奥へと吹き込まれた台詞は甘く。
アレックスの身体の奥には、メラメラと燃える熱と疼きが生まれた。



丸いリースに飾る熱い想い



‐end‐





蟹氏はクリスマスでもナチュラルセクハラですwww

2013.12.17


→???


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