キミとXmasA



「うーん、遅い……。」


既に届いていておかしくない筈の物が、なかなか届かない事に苛立つミロの眉間には、深い皺が寄っていた。
それが届くまでの間に、用意しておかなければならない飾りは、もう全て作り終えている。
何もする事がないとなると、飽きっぽいミロにとって、待つのは苦痛なばかりだ。
大きな溜息を吐いて、遂にミロはデスクに突っ伏してしまった。


そんな彼の頬は、餌を貯め込むリスの頬袋のようにプックリと膨れている。
口の中いっぱいに広がっていく、シオンの甘いキャンディーの味に懐かしさを覚えながらも、ジワジワと沸き上がる苛立ちは抑えられそうにない。


「むーのやひゅ、ほんなおひょくまで、ひゃにやってんだひゃ……。」
「ミロ様……。そんな大きなキャンディーを頬張ったままでは、何を仰られているのか分かりません。」
「んー。」


ゴロリと顔の向きを変えれば、視線の先にはデスクに広げられた沢山のツリー飾りと、その向こうに、二人の女官の姿が見える。
一人はミロと共にクリスマスツリーの飾り付けを言い渡されたアレックス、もう一人は、別の黄金聖闘士とリース作りを命じられている女官。
が、その聖闘士は、リースに使う星の飾りが届かない事に腹を立て、早々に何処かへと逃亡してしまった。


「お待たせ、ミロ!」
「ん、貴鬼? ムウじゃないのか?」
「今日はオイラがサンタさんなんだ。ムウ様に代わって、オイラが持ってきたのさ。」
「全く、随分と人待たせなサンタさんだな……。」


ブツブツと小さく文句を吐きつつ、ミロは受け取った袋から、重々しい金属の木と、小さな星飾りを取り出した。
時間は掛かってしまったが、流石にムウの作るものは精巧で美しく、立派なものだ。
決して口に出しては言わないが、ミロは心の中でだけ感嘆していた。
この木だけでも綺麗なのに、更に、この飾りで装飾するとなると、きっとすばらしいツリーが出来上がる、そう思える程に。


「さぁて、コレをどうやって飾り付けてやろうか……。」
「じゃ、オイラは行くね! バイバイ、ミロ!」
「おー、サンキューだったな、貴鬼。気を付けて戻れよ。」
「それでは、私も行きますね。」


貴鬼が部屋を出て行くと同時、リース作りを命じられていた女官も、リース用の飾りが入った箱を抱えて立ち上がった。
逃走したアイツが何処に居るのか、分かっているのだろうか?
アレは子供の時から、サボリにかけては天才的だったから、少しだけ心配になる。
「大丈夫か?」とミロが掛けた言葉に、だが、彼女はニコリと笑っただけだった。
どうやら居場所に心当たりがあるようだ。


「ヨシ、さっさと始めて、とっとと終わらせようぜ、アレックス。」
「はい、ミロ様。」


張り切るミロは、広がる髪を一括りにして纏め、腕捲りをしながら、まだ何も飾られていない金属の木を繁々と眺める。
その横でアレックスは準備万端、既に幾つかの飾りを手に持ち、控えていた。
それから一時間程、黙々と作業を続けた二人は、必要以上の会話を交わす事もなく、ひたすら飾り付けに没頭していた。
そのお陰か、サクサクと作業は進み、予想外に早く飾り付けが終わった。


「なんか、すっげー集中した。」
「そうですね。殆ど会話もしなかったですしね。ミロ様には珍しく。」
「ええっ! 俺って普段、そんなに煩い?」
「カミュ様に比べると多少は……。」
「カミュと比べるなよ。俺は話し上手で、アイツは聞き上手、そういう役回りなんだからさ。」


顔を顰めて、ワザと不機嫌な振りをしてみせるミロに、アレックスはクスクスと笑うばかり。
彼と居ると楽しい。
居心地良い雰囲気が、いつも彼を包んでいる。


「なぁ。ココにさ、もう一個、星があった方が良くないか?」
「何処ですか?」
「ほら、ココ。」


チョンとミロが指で突いた先を見て、それから少し下がって全体を眺め、アレックスは確かに何か足りないと思えた。
キョロキョロと部屋を見回せば、自分の直ぐ横のデスクに、余剰分の星が置いてあり、それを手に取ったアレックスは、腕を伸ばしてミロに渡そうとする。


「あっ……。」
「わっ! すまん、アレックス。」
「い、いえ……。」


ツリーから視線を外さないまま、手だけ伸ばして星を掴もうとしたミロだったが、実際に掴んだのは、飾りの星ではなく、アレックスの右手首。
二人同時に驚いて、それから、頬がポッと赤く染まって、そして、訪れる沈黙。
それまでの居心地良さが嘘のように、気まずい雰囲気が二人を包んだ。


「あの、さ……、アレックス。」
「は、はい……。何でしょうか?」
「今夜のパーティーが終わった後、時間ある? 良かったら、天蠍宮で飲まないか? 勿論、二人きりで……。」


見れば、薄紅が差していたアレックスの顔が、更に真っ赤に染まっていく。
これならば返事を聞くまでもない。
掴んだままの手首が、ヤケに熱く感じられた。



期待の星がツリーに揺れる



‐end‐





ちょっと初々しさが見えるミロたん、可愛い^^

2013.12.15


→???


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