ポフッと小さな音と共に、薄暗い寝室のベッドの上に横たえられて。
ゆっくりとバスローブの紐を解く、シュラの腕。
そっと合わせ目を開いて、まるで愛撫のように手を滑らせてバスローブを脱がしていく。
バサッと音を立ててベッドの下へと滑り落ちたローブの上に、シュラ自身が着ていたバスローブを、更に投げ重ねて。
それを合図に、長くて甘いシュラとの夜が始まった。


艶めかしく揺れる身体は、彼の与えてくれる全てに反応する。
その反応が、更にシュラを煽り、濃厚な愛撫は益々深くなるばかりで。
夜の張り詰めた静寂(シジマ)を、吐息混じりの私の声が、何度も何度も震わせた。


「シュ、ラぁ……。は、あっ……。」
「アレックス……。」


切ない声を部屋に響かせながら、私は初めてシュラに抱かれた日の事を思い出していた。
四年前の秋。
私が十六歳になった誕生日の夜の事。


あの日も今日と同じように、ソファーの上でウトウトし掛かっていて。
シュラが私を抱き上げて、ベッドまで運んでくれた。
いつもなら、そのまま寄り添って眠るだけだったのに、その日はいつもと違っていた。
ベッドに横たえられた後、シュラが優しく私の夜着を剥ぎ取ったのだ。


「アレックスの嫌がる事はしない。嫌なら嫌と言ってくれ。」


シュラはそう言ってくれたけど、嫌な事なんて何一つある筈もなく。
彼が与えてくれるものならば、痛みでも苦しみでも何でも構わなかった。
シュラの事が、好きで好きで。
やっと彼のものになれるのだと思うと、それだけで嬉しくて涙が零れ落ちそうで。
そして、シュラは驚く程に優しく、私は初めての夜を、この世の物とは思えない歓喜と共に終えた。


あれから何度、シュラと共に夜を越えただろう。
数え切れない夜を重ね、お互いの全てを隅から隅まで知り尽くしても、それでもまだ足りなくて。
心の赴くままに、本能が求めるままに、シュラと抱き合う事を望み、飽きる事なく愛し合う。
全てを知り尽くしても尚、彼が欲しいと願い、彼に欲しいと願われるから。


出逢った時には、もう知っていた気がするの。
この身体が、この心が。
彼が刻む、深い深い愛の印を。
シュラの背におぶさって夕焼けの階段を上りながら、身体も心も知っていた。
太古の昔から変わる事のない男女を繋ぐ不変のリズムを、愛して止まない彼から与えられていた事を。


それは、前世の記憶だろうか?


一つ前に生まれてきた時も、その一つ前に生まれてきた時も、私は彼と愛し合い、そのリズムで愛を教えられた。
そんな信憑性のない夢みたいな事さえも、本当なのだと信じてしまうくらいに強く、私はシュラを愛し、そして、シュラも私を愛していると、そう思う。


聞き慣れたベッドの悲鳴。
揺れ動く部屋の空気。
熱い吐息、私を呼ぶ声。
頬を擽る彼の黒髪と、身体に掛かる確かな重み。
触れる肌の熱さ、探る手の深さ、私の奥深くを確かめる動きの力強さ。


全てが絡み合った激流が、目眩にも似た激しさで私に襲いくる。
突き動かされた私の意識は、シュラと共に歓喜の極みへと昇り詰めた。


「アレックス……。」
「……ね。シュラは、いつから私の事を好きになった?」


優しい手が頬を包む。
愛を交わした後の気怠さのまま、シュラは目を細めた。


「……分からん。多分、出逢った時には、もう既にアレックスに惚れていた。そう思う。」
「そう……。同じだね、私と。」


シュラにとっても、これが最初で最後の恋。
私達はたった一つの愛を確かめるように、そっと唇を重ねた。



→第5話へ続く


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