ベッドの上にゆったりと座ったままのシュラは、口元にこそ笑みが浮かんではいるものの、私を見つめる瞳には燃え立つような熱が浮かんでいた。


「そんな状態なら、立ってるのも辛いだろ? シャワー、俺も一緒に入ろうか? そのフラつく足を支えてやるぞ。」


そんな瞳で、そんな視線を向けて言われたら、心を飛び越えた身体が勝手に反応してしまいそうになる。
だが、私はそんな自分勝手な身体を何とか振り切り、キッとシュラを睨むように見つめ返した。
そんな私の様子に、彼は訝しげに片眉を上げる。


「悪いけど、お断りよ。そんな事をしたら、ますます足腰が立たなくなるだけだもの。」
「そうか?」


どうやら、図星だったようだ。
そう返してやれば、シュラは苦い笑みを浮かべて目を逸らした。


熱いシャワーが心地良かった。
熱過ぎるくらいのお湯が、愛された後の特有なベタつきも、身体中に残る甘い気怠さも、みんな纏めて流してくれるような気がする。


男同士は良い。
余計な事を言わなくても、時に分かり合える事があるから。
シュラとアイオリアも、そうだった。
アイオリアは、ずっとシュラの事を憎い相手と思い、シュラは敢えてアイオリアに何も言わずにいた。
だが、ある巨大な敵と共に闘う内に、それぞれが持つ思いを理解し、分かり合っていった。
それからというもの、アイオリアがシュラを特別に避ける事はなくなったのだが、それはシュラに対してだけで、私への態度は変わらなかった。


アイオリアに、ちゃんと分かって欲しい。
分かってもらった上で、シュラと共にいる事を許して欲しい。
そう思うのは、やはり私の我が儘だろうか。
シャワーの雨の中、私は切なさに沈んだ。



***



結局、私はシュラに何も言わずはぐらかした。
彼に相談する前にまず、自分で出来るだけの努力はしておくべきだと、そう思ったから。
これは私とアイオリアの問題。
シュラの存在も関係しているとはいえ、誤解を与えたのは私だし、誤解されても仕方がない選択をしたのも私だ。
だから、まずは自分から何かを……。


この日、シュラを執務に送り出した私は、その足で磨羯宮の反対側の入口へ向かい、そこにジッと立っていた。
今日はアイオリアも執務当番の日。
こうして待っていれば、必ずこの場所を通る。


そして、待つこと僅か数分。
階段の下から力強く階段を上ってくる人影が見えて、私の心臓が高鳴った。
あの堂々とした歩き方。
子供の頃から変わらない、真っ直ぐ前を見据えて進むアイオリア。


向こうも私に気付いたに違いない。
ホンの一瞬だけ、微かに歩調が乱れたが、直ぐにいつもの彼に戻る。
そして、磨羯宮の入口に差し掛かったアイオリアに向かって、私は声を掛けた。
バクバクと心臓の音が煩いくらいに打ち付ける中、震える声で彼を呼び止めた。


「……リア。アイオリア! あの、ねぇ、待って!」
「…………。」


スッと私の横を通り過ぎて行ったアイオリアが、僅かに足を止める。
だが、それも一瞬の事。
直ぐに歩みを再開した彼は、振り返りもせずに、磨羯宮の中をズンズンと突き進んでいった。


「アイオリア、アイオリアッ!」
「…………。」


もう、彼が立ち止まる事はなかった。
伸ばした手から離れ、次第に遠ざかるアイオリアの背中を見つめて、私は悲しみと切なさの狭間で、ただただ途方に暮れた。



→第3話へ続く


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