コツン、微かな音が聞こえて、馳せていた思いを現実へと戻す。
目の前には、未だ留まり続けているデスマスク様の姿。
この人、いつまでココで油を売っているつもりなのだろう、あ、もしかしてサボり?
執務が嫌だとか、後輩指南が面倒とか、そもそも修練自体がダルいとか。
背の高い彼をぼんやり見上げて考えていると、再びコツンコツンと宮内を歩いて近付いてくる足音が響いた。


この……、足音は……、もしや……。
いや、もしかしなくても!
間違いない、アイツだ!


「お? どうした、アレックス?」
「来やがったな、天敵めっ!」
「天敵って……、シュラじゃねぇか。どうし――。」
「良くも、そんな平然とした顔で、この宮の床を踏めますね! どういう神経をしてるんですか、貴方は?!」
「っ?!」


現れたのは私の天敵。
生涯、最強・最悪の相手だ。
山羊座のシュラ様……、アイオロス様を半殺しにした黄金聖闘士。
あの日、この男の刃を受けて、アイオロス様は死に至る怪我を負った。
殺したのは彼じゃない。
だけど、死の原因を作ったのは彼だ。
許せる訳がない、許してはならない、許す理由がない。


「どうもこうも……、俺は自分の宮に戻るだけであって、ココを通り抜けないと帰れない。」
「帰れるでしょう、黄金聖闘士ならば! こう、ピョーンとひとっ飛びすれば! 向こう側の入口から、こっち側の入口くらいは、簡単に飛び越えられる筈です!」
「出来る訳ねぇだろ……。」
「それは無理だ、黄金聖闘士といえど。」


デスマスク様は盛大に呆れ顔をし、天敵シュラ様は口元を引き攣らせて、左右から私を見下ろす。
い、威圧感が凄いですね。
背、高過ぎじゃないですか、二人共。
だからといって、その圧に屈してはならない。
背が高いからって、何だ!
黄金聖闘士だからって、何だ!


「と、兎に角! 一刻も早く立ち去ってください、この人馬宮から! 一瞬で! 光速で!」
「分かった……。分かったから、そう殺気立つな。俺は直ぐに消える。」
「そうして下さい、迅速に、早急に!」


大きな溜息を一つ零すと、シュラ様は背を向け、足早に立ち去った。
後に残ったのは、私に対する冷たい視線。
それは勿論、この場に残留したデスマスク様のものだ。


「オマエなぁ、アレックス。あの態度はねぇだろ……。」
「何がですか? どこがですか?」
「黄金聖闘士に対して不敬だって言ってンだよ。ま、俺への態度も不敬極まりねぇけど。」
「そもそも敬うような相手ではありませんから。」
「それって、俺もか……。」


怒って良い筈の返答に、呆れ顔で返すデスマスク様。
先程のシュラ様と同じく、大きな溜息を零す。
その呆れの表情は、何か言いたい事がある顔だ。


「ハッキリ言ったらどうですか?」
「ハッキリ言ったら、オマエ、キレるだろ。」
「デスマスク様じゃあるまいし、そう簡単に怒りませんよ、私は。」
「ほう、そうか。なら、ハッキリ言ってやるよ。」


デスマスク様の呆れ顔が、眼光鋭いキリッとしたものに代わる。
あ、これ、もしかして、ちょっと地雷踏んじゃったかも?
思った時には既に遅く、私は彼の落とす爆弾を、真正面から受け止めるしかなかった。





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