何故、『元』巫女なのかというと、ある事件に関連して、その地位を剥奪されたからだ。
私の父は、罪人として処刑された。
アイオロス様に仕える従者だったからだ。
十三年前の事件の後、アイオロス様に関係する人物の殆どが処罰・処刑された。
私は巫女としての力を見出されて修業中だったが、罪人の娘を女神様の巫女にする訳にはいかない。
まだ幼い子供であったから処罰はされなかったものの、巫女の地位は剥奪されてしまった。


そんな私を拾ってくれたのが、アイオリア様の従者さんだった。
保護者を失い、巫女にもなれず、後は野垂れ死ぬしかない状況にまで陥っていた私でも、生き続ける意味はあるのだと励ましてくれた。
彼はアイオロス様と射手座の黄金聖闘士の位を争った、元・聖闘士候補生であり、アイオロス様の親友でもあった人。
怪我を負い闘えない身体となった今は、従者として幼いアイオリア様を献身的に支えている。


そんな彼に感化され、私もアイオリア様のために何でもしようと、どんな事でもやってみせようと決意し、実行してきた。
それは、拾われた恩義からだけではなく、アイオリア様に向けられた誹謗中傷が、余りに酷かったからだった。
既に黄金聖闘士と認められていながら、その幼さ故に、聖域中の人々から蔑まれ、侮られ、軽んじられ、疎まれたアイオリア様。
そんな彼を守らなければならないと思ったのだ、幼い私なりに。


「アレックス、オマエな。だからって、火攻めにするか、普通? 女で、子供で、元・女官が。」
「失礼ですね。火なんて点けていませんよ、煙の中に閉じ込めただけで。」
「似たようなモンだろ……。恐ろしい女だな、オマエ。」


アイオリア様は優しい。
直情的で、直ぐに熱くなったり、カッとなったりするから、周囲の人達は余り気付いていないかもしれないけれど、彼は基本的に自分より弱い者に対しては、一切、抵抗しない。
どんなに汚い言葉を投げ掛けられても、受け流し、聞き流す。
彼よりも下の地位である筈の白銀聖闘士、青銅聖闘士、果ては雑兵に至るまで、逆賊の弟であるアイオリア様を侮蔑してきたけれど、その言葉に言い返す事もなく受け入れ、それどころか、危険が迫った時には、身を挺して彼等を守ってみせた。
それが黄金聖闘士としての当然の務めだとして、当たり前に、そう振る舞うのだ。


流石は黄金聖闘士。
流石は、あのアイオロス様の弟。


でもね。
だったら、私が報復するしかないじゃない。
抵抗しないのなら、反論しないのなら、相手に何をしても良い、なんて事にはならない筈。
他人に悪意をぶつけたら、同じだけの悪意が返ってくる事を、あの馬鹿な連中は知らなければならないのだ。
という訳で、アイオリア様に対して、悪意ある悪戯(私から見れば悪戯の範疇に入らない程の酷い攻撃)を仕掛けてきたヤツ等には、それに見合うだけのシッカリとした制裁を!
幸いにも、巫女の地位は剥奪されたとはいえ、その力は全く失われていなかった事で、私には一般人達には出来ない様々な攻撃が可能だった。


「信じられねぇよなぁ。既に巫女の地位を剥奪された元・巫女が、しかも、七歳とかそこらのガキが、現役の巫女達を圧倒する力を持ってるってンだから。」
「きっとアイオリア様を不憫に思った女神様が、力を貸してくださったに違いないです。」
「アテナの嬢ちゃんがオマエの本性を知ってたら、絶対に貸してねぇだろうけどな。そンな危険な力は。」


折角、失われずに済んだ力、大切な人達のために使わずして何とする。
私はアイオリア様と、彼を支える人達を守るために、惜しみなく、この力を行使してきた。





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