クスリ指を差し出して



「……嫌だ。」
「さあ、早く。薬指ですよ、勿論、左手の。」
「嫌だって言ってンだろ。離せ、アレックス。」


そう言って、私の手を腕から振り解いた後、彼は両手をポケットに捻じ込んだ。
デスマスク様ったら、照れちゃって、もう。
相変わらずのツンデレ具合ですね。


「照れてねぇ。つか、デレてもねぇ。」
「そうやって否定する姿は、まさにツンデレそのものじゃないですか。」
「触ンな。勝手に俺の手を引き出そうとすンな。」
「え〜。手を出さないと、薬指が見えない……。」
「出したら、なンかするだろ、オマエ。」


そりゃあ、しますとも。
そのために来たんですから、巨蟹宮に。
デスマスク様に会いに。


「来なくてイイ。」
「え〜、やっぱりツンデレ〜。」
「煩ぇ。アレックスの事だ。どうせ、おかしな事、考えてンだろ? 薬指ってコトは、ペアリングでも嵌めようって魂胆か?」


大正解です。
流石はデスマスク様、私の事は全て分かってくださっているんですね。
とはいえ、正確には『ただのペアリング』ではなく、『結婚指輪』ですけど。
デスマスク様と私を繋ぐ、愛のいっぱい詰まった結婚指輪です。


「はぁ?! 結婚指輪ぁ?! 俺はオマエと結婚なンかしてねぇ!」
「良いじゃないですか。まだ結婚してなくても、これからするんですから。」
「しねぇ! つか、俺がアレックスから結婚指輪を貰うとか、意味分からねぇ!」
「私からじゃないですよ。デスマスク様からです。」
「……は?」


この指輪を買うためのお金は、私が食費や生活に掛かるお金を上手く遣り繰りして、巨蟹宮の宮費から捻出したんです。
ですから、これはデスマスク様のお金で買ったもので、私からではありません。


「立派な横領じゃねぇか! 何してンだ、オマエは!」
「横領だなんて人聞きの悪い。節約は良妻賢母の証です。デスマスク様の生活の質を落とさず、そして、美味しいものを食べていただきながらも、しっかりと節約してコツコツ貯める。どれだけ苦労した事か……。」
「そンなモン、オマエの勝手な苦労だろうが! そもそも巨蟹宮付き女官でもねぇのに、宮費を管理している時点で、おかしいンだよ!」
「でも、デスマスク様は見て見ぬ振りでしたよー、ずっと。」


どうせ将来的に家計は一緒になるのですから、私が管理して何の問題もない筈。
それに、あれだけあんな事こんな事をしておいて、今更、結婚しないとか有り得ませんって。
いくらデスマスク様でも、それは不誠実が過ぎますよ。


「あんな事こんな事してンのは、アレックスの方だろ。俺が夜這いの被害者なンだが?」
「デスマスク様が私を誘惑するからですよ。」
「俺がいつ誘惑した? 記憶にねぇンだが? オマエの思い込みだろ。」
「デスマスク様は存在しているだけでセクシーなので、襲わずにはいられないのです。つまり、そこに居るだけで誘惑しているのです、私を。」
「意味分かンねぇよ。つか、どさくさ紛れに手を引っ張り出そうとすンじゃねぇ!」


あああ!
そんな乱暴に手を振り解かなくても……。
どれだけ照れ屋なのですか、デスマスク様。
あ、そうか。
今夜も夜這いに来いという事ですね。
そして、夜這いの際に、指輪を嵌めさせろと。
それならそうと、言ってくだされば良いのに。
ツンデレにも程がありますよ。


そんな照れ屋なデスマスク様を見下ろして、じっくりしっぽり楽しんでから、薬指に指輪を……。
なんて想像したら、ふふっ、今から夜が楽しみでなりません。
待っててください、デスマスク様!



‐end‐





放置し過ぎてスミマセン、完結までに一年以上掛かってスミマセン、21年の蟹誕記念夢が22年に書き上がるとか意味不明過ぎてスミマセン。
何とか完結したので許してください……。
暴走特急列車な女官さんが、この後、蟹さまと結婚出来たのか否か、それは御想像にお任せします。
このまま漫才みたいな関係が続くのか、蟹さまが流され捲った挙句にゴールインしちゃうのか、夜這いの賜物な蟹さま2世が出来るのか……。
そこはお好きに妄想で補完してくださいませw
ここまでお付き合いを有難う御座いました!

2022.07.26



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