――ドンドンドンッ!


「デスマスク!いるのだろう? 居留守など使っても無駄だぞ!」


――ドン! ガチャ! ズカズカズカ!


「デスマスク! いるのなら返事をしないか! その腐り掛けた脳天に、白薔薇をお見舞いされたいのか?!」
「うっせー、薔薇臭男が! 腐り掛けてンのは、テメェも同じだろが!」
「私は腐り掛けてなどいない! 貴様のように、真昼間からゴロゴロ寝てるヤツと一緒にするな!」
「ざけんな! 俺ぁ、さっき任務から帰ってきたトコなンだよ! 三日も寝てねぇんだ、邪魔すンな!」
「三日くらいなんだ! 貴様、聖闘士だろう?! それくらい当たり前に出来なくてどうする?!」


勝手に入り込んだ巨蟹宮のリビング。
燦々と陽の当たるソファーの上に長い足を投げ出して寝そべるデスマスクは、仮眠と言うか、昼寝と言うか、兎に角、眠りの真っ只中にいた。
だが、そんな事などお構いなしに、私はその腕を無理矢理に引き、力尽くで起き上がらせようと試みた。


「痛ぇ、腕が抜ける! 引っ張ンな!」
「貴様が起き上がれば問題ないのだ! さぁ、早く起きないか!」


「くそがっ!」とか「ふざけンな!」とかブツブツと呟きながら、渋々と起き上がったデスマスクは、ソファーの前で仁王立ちしている私を、睨み付けるように見上げた。
だが、ヤツのご機嫌など取るつもりは、私にはサラサラない。
取り敢えずとばかりに用件を切り出せば、聞く気がないのか、目の前で銀の髪をバリバリと掻き出す始末。


「聞く気がないのか、デスマスク? 本気で白薔薇をお見舞いされたいか?」
「聞く気なンて、あるわきゃねぇだろ。無理矢理に叩き起こされて、機嫌悪ぃンだよ、俺は。」
「貴様の機嫌が悪かろうが、どうだろうが、今は関係ない。」
「ったく、なンつー自己中っぷりだよ……。」


呆れ顔で更に髪を掻き毟ったデスマスクは、言い返すのを諦めたのか、単に疲れたのか、大きな溜息を吐いた。
一先ず、やり返してこなくなっただけマシだ、話がスムーズに進む。
私はデスマスクの機嫌など軽く無視して、話を切り出した。


「女官のアレックス、知っているだろう? 彼女が聖域を出て行くかもしれないんだ。彼女を引き止めるためにも、お前の力を貸して欲しい。」
「ぁあ? アレックスだと? なンで、俺が……。」


思った通り、しらばくれるつもりか。
今まで、この私にすら彼女と付き合っていた事実を隠していたくらいだ。
まぁ、そのくらいは当たり前だとは思ったが……。


「何で、だと? 昔、付き合っていたというのに、随分と冷たい物言いだな。」
「……オイ、何処で聞いたよ?」
「何がだ?」
「付き合ってたってのだよ。俺とアイツが――。」
「アレックス自身に聞いた。」


デスマスクは再び私を睨み付けるように見上げた。
その鋭い視線で私の心の中を探ろうというのか?
悪いが私の中にやましい思いなど、これっぽっちも有りはしない。


「チッ……。昔の事だ。今更、何を……。」
「私にも隠していたくらいだ。真剣だったんだろう?」
「あ? 何をバカな事、言ってやがる。俺が一人の女に真剣になる訳ねぇだろ。」
「私に嘘を吐いても無駄だよ。長い付き合いだ、キミの性格くらい良く分かっている。」


そうだ。
真剣だったんだ、コイツは。
真剣にアレックスと付き合い、本気でアレックスを愛した。
じゃないと説明が付かない。
付き合っていた事を隠していたのも、別れた後に、誰にもその事を言わなかったのも。





- 11/19 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -