心が切ない



本当に行ってしまうのか?
咲き乱れる花の香りを含んだ暖かな風に吹かれ、うっとりと微笑んでいたアレックスは、俺の言葉を受けて困ったように眉を下げた。
こんな状況で、そんな表情をしていても、彼女は綺麗で愛らしかった。


「えぇ、行くわ。」
「どうしても?」
「ミロ……。最初から決まっていた事でしょう。」


駄々を捏ねる子供を窘めるように、真っ直ぐ俺を見遣ったアレックス。
そうだな。
確かに、始めた時から終わりが決まっていた恋だった。
彼女は一年という限定された期間で、グラード財団から聖域へと派遣されてきた。
派遣期間を終えて日本へ戻ったら、婚約者と結婚するのだと聞いていたし、アレックスにもそう告げられていた。


「人の心は変わる。決められた事を、そのまま守る必要があるとは思えない。」
「そうね。でも、私の心は変わってないわ。」


それは……、俺とは一時の遊びだったって事か?
終わりの時が分かっているからこそ、安心して足を突っ込めたのか。


「そうじゃないわ。ミロの事は好き。この世で一番……、好きよ。」
「だったら、どうして?」
「心は変わっていないって言ったでしょ。どんなにミロの事を好きになっても、離れたくないって思ってしまっていても、日本に帰って、あの人と結婚するのは変わらないの。その気持ちは動かないのよ。」


意味が分からない。
俺の事が好きなら、俺とこうして愛し合っているなら、どうして婚約を解消しないのか。
正直に告げれば良いだろう、他に好きな人が、大切な人が出来たのだと。
こういう事は良くある話じゃないか。


「ミロ……。」
「俺は納得いかない。話し合う余地が無いなんて事は。」
「ミロ、そんな事を言うのは……。」


ルール違反だわ。
そう言って、アレックスは溜息を吐く。
あぁ、駄目だ。
これ以上は、駄目だ。
アレックスの目が細まって、これ以上、冷たくなる前に。
俺は、これ以上の我が侭を通すのは止めなければ。
アレックスに軽蔑されないためにも。


「ゴメン……。俺、我が侭だった。」
「ううん、ミロ。貴方のそういうところが好きよ。」
「元々が俺の我が侭から始まったんだもんな。俺とアレックスの関係は。」


彼女が遊びの恋を良しとしない真面目な性格なのも、婚約者がいる事も知っていて、一年だけでも良いから付き合って欲しいと我が侭を言ったのは俺だった。
今日の別れは避けられないものだと分かっていて、全てを始めたのも俺だった。


「ミロが強引に私を引っ張ってくれたから、こんなに楽しい時が過ごせた。素敵な恋を経験出来た。ありがとう。感謝しているわ。」
「俺も……、感謝してる。」
「大好きよ、ミロ。これからもずっと……。」
「俺も。ずっとアレックスが好きだ。この気持ちは変わらない。何年経とうと、他に好きな人が出来ようと……。」
「ありがと……。ありがとう、ミロ。」


どんなに好きでも、続けられない事がある。
どんなに愛していても、離れなければならない時がある。
俺達の恋は、実を結ばない恋だった。



でも、お別れ



‐end‐





最初から全てが限定的だった恋愛で、ミロは勿論、別れたくなどないんだけれど、あまり強く引き留め過ぎて、相手の中での自分の印象を悪くしてしまうのなら、綺麗な思い出のままの別れを選ぶという、ミロたんっぽいような、ぽくないような、そんな話にしてみました。

2017.05.16

→next.(双子座の恋はもどかしく届かない)


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