シュラが、こんな風に笑むなんて。
口元に『何か』を色濃く滲ませる微笑み方は、デスマスクが悪巧み(しかも、ちょっとセクハラ気味な)を企んでいる時ならば良く見掛ける光景だが、シュラがとなると、滅多にない。
いや、アレックスにとっては初めて見る、妙に色っぽい不敵な笑みだった。


「えっと……、シュラ?」
「俺の誕生日プレゼントだったな。時間は、まだたっぷりある事だし、アレックスに楽しませてもらうとするか。」
「あの……、何を?」


予想通りに困惑するアレックス。
その傍目にも分かり易い困惑振りに、シュラの悪戯心は一層、煽られた。
いや、悪戯心などという可愛いものでは済まない。
本気で彼女を混乱させて、振り回したいという欲求が強くなる。
ニヤリ、シュラの口の端に浮かぶ笑みが深くなった。


「脱いでくれないか?」
「…………は?」
「服だ。その女官服を脱いで欲しい。アレックスが一枚ずつ脱いでいく姿を、眺めて楽しみたい。」
「……はい? あの、えっと……、ええっ?!」


ガタリ、無駄に大きな音を上げて立ち上がるアレックス。
そんな彼女を涼しい顔で見上げる、ソファーに座ったままのシュラ。
そのまま言葉もなく、時が流れる。
一分、二分。
アレックスには、そのくらいに長く感じられた時間だったが、実際には十秒にも満たない短い時。
息の詰まる沈黙を経て、音もなく立ち上がったシュラは、固まって立ち尽くすアレックスの腰に素早く腕を回した。
そして、自分の身体へと彼女を引き寄せながら、その長い髪を思わせ振りに掻き上げる。


「俺は本気だが、どうする?」
「っ?!」
「料理をするならするで、あらかじめ俺に言っておかなかったお前が悪い。その詫びを含めて、俺の要求に応じる義務がアレックスにはあるんじゃないのか?」
「そ、それは……。」


至近距離から見下ろしてくるシュラの眼差しは、真剣そのものだ。
決して軽い冗談とか、ちょっとした悪戯のつもりで言っているのではないと、その鋭い視線だけでも理解出来る。
ゾクリ、アレックスの背中に震えが走った。
それはシュラの真っ直ぐな視線と、口元に浮かぶセクシーな笑みに当てられてのもの。
既にグシャグシャに混乱していたアレックスの頭の中で、混乱は更に深まるばかり。


だが、実際のところ、シュラのそれは演技だった。
アレックスに『絶対に従わなければならない』と、思わせるための演技。
その要求を受け入れなければ、シュラの機嫌は治らず、彼の不満を大いに買ってしまうと思い込ませるための演技。
シュラはアレックスとの会話の間に、気が付いていたのだ。
アフロディーテが自分に暗示を掛けていた事を。


アフロディーテが食材だけを置いていって、それをどうするのか何も言わなかったのは、ワザとだったのだ。
それどころか、その食材で皆が食べるつまみを作って欲しいのだと、シュラがそれを料理してしまうように遠回しに誘導していた事にも気が付いた。
何も考えずに、その通りにしてしまった自分は阿保だなと多少は思ったが、やってしまった事に後悔はない。
お陰で、自宮の部屋の中という密室で、アレックスと二人きりで過ごす時間をタップリと持てたのだから。


なる程、これがアフロディーテからの本当の誕生日プレゼントか。
シュラはアレックスの髪を掻き上げた手で、今度は、その頬を包み込みんだ。
そして、更に顔を彼女へと接近させつつ、心の中では友への感謝の言葉を盛大に並べ上げていた。





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