アイスキャンドルの輝きは



天蠍宮からの帰り道。
強かに酔った私達は、フラフラとよろめきながらも、ゆっくりと十二宮の階段を上がっていた。
私だけなら兎も角、今夜はカミュまで酩酊した状態で、ちょっとだけ躓いたとか、草木がガサガサと風に鳴いたとか、そんな何でもない事でケラケラと笑い合い、何度も何度も立ち止まって。
さっぱり前へと進まないのも、冬の夜の寒気に身体が徐々に冷えていくのも、全く気にする事もなく。
酔っ払い特有の陽気さで、冴え冴えとした夜空も、瞬く幾億もの星々も、ぷっくりと甘い色に膨れた月すらも、何か面白いもののように、私達の目には映って見えた。


天蠍宮でのパーティーは楽しかった。
一年に一度くらい羽目を外しても良いだろう、珍しくカミュがそんな事を言い出して。
気兼ねなく飲んで、飲んで、笑って、飲んで。
すっかり上機嫌に出来上がってしまったのだ、カミュも私も。
せめて、どちらか一方だけでも多少の正気が残っていれば良かったのだけれど、それが残らない程に楽しかったのがいけなかった。
という訳で、二人して千鳥足の陽気な酔っ払いカップルが、夜空に笑い声を響かせて闊歩する、こんな状況に……。


「ふふっ、ふふふふふっ。……っと、ととと、わわっ?!」
「どうした、アレックス? 大丈夫か……。」


――ガシャン!


正気に戻ったのは、ソレが割れた直後だった。
やっと宝瓶宮の入口まで辿り着いた時。
笑いながら、無意味に楽しさが増していって、フラフラと横歩きで足が向かった先に、置かれていたソレを派手に蹴り飛ばしてしまった。


「やだ……、壊れちゃった。」
「大丈夫か、アレックス? 怪我は?」
「平気よ。ちょっとだけ爪先が痛いけれど。それより……。」


壊れて粉々になったソレを見下ろす。
私が作ったアイスキャンドル。
夜になると灯りが極端に少ない聖域内で、帰宅するカミュを迎え入れる優しい光になればと思って、宝瓶宮の両側の入口に一つずつ、小さなバケツに張った水を凍らせて作ってみたの。
でも、この数日、クリスマス寒波で冷え込んでいたとはいえ、ギリシャの気候には耐えられなかったのだろう。
真ん中に灯したキャンドルの熱もあって、簡単に壊れるくらいに氷が緩んでしまっていたに違いない。


「綺麗に作れたから気に入っていたんだけど。」
「あぁ、綺麗だったな。」
「もっと沢山作って飾れば、もっと素敵になると思ったのに。」
「そうか……。そうだな。」


すっかり落ち込んで、階段の一番上に座り込んでしまった私に対して、カミュは慰めるように頭をポンポンと撫でてくれた。
彼も私と同じで、すっかり酔いも覚めて正気に戻っている。


「そのように落ち込むものではない。」
「でも……。」


言い掛けた私を制して、カミュがフワリと私の横に屈んだ。
手袋を脱ぎ、石畳の地面の上で、クルリと右手を回す、ただそれだけ。
それだけなのに、そこには壊れた筈のアイスキャンドルが復元されていた。
いや、壊れたものよりも、ずっと透明でキラキラしていて、息を飲む程に綺麗なアイスキャンドルだった。


「アレックス、キャンドルを。」
「え、あ、はい。」


促されて、壊れたアイスキャンドルの中から探し出す。
カミュの作った新しいアイスキャンドルの中で、再び暖かな火が灯される蝋燭。
揺らめく炎が氷の壁に反射して、その幻想的な美しさに思わず見惚れてしまう。


「沢山と言うのなら、まだまだ作れるのだ。」
「わ、わわっ?! カミュ、そんなに作っても蝋燭が足りないわ!」


私の反応に気を良くしたのか、カミュは宝瓶宮の前に次々とアイスキャンドルを作り出していく。
どうやら、カミュの酔いは、まだ完全には抜けていなかったみたいだ。
止めても言う事を聞かず、遂に十個ものアイスキャンドルが宝瓶宮の入口を飾る事になってしまった。


「明日、二人で蝋燭を買いに行こう。反対側にも同じだけ作って、飾って。そうすれば、夜にはもっと綺麗になる。」
「それを見て、皆が吃驚するでしょうね。ふふっ。」


一緒になって笑っていると、突然、カミュに肩を引き寄せられた。
驚いている間に、唇に触れるだけのキスをされる。
離れた後、彼の楽しそうな瞳を見て、やっぱりまだ酔っているのだと、いつものカミュらしくない陽気さに、私は目を細めたのだった。



アイスキャンドルの輝きは
幸せの甘い光



‐end‐





一人目は我が師になりました。
お酒が入って陽気になる我が師がいても良いかなと思ってw

2016.12.18

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