三ヶ月後、晴天きらめく空の下。
心地良い暖かな風が、アレックスの頬を撫でていた。
白い雲が所々に浮かぶ青い空は、彼女の瞳に眩しい程で、青過ぎるくらいの青を一面に広げる紺碧の海は、真っ直ぐには見ていられない程に、高く照らす太陽の光を反射している。
アレックスは目を細め、目の前に広がる素晴らしい景色を感嘆の声を上げて眺める人達を、微笑ましげに見つめていた。


「……アレックスさん。」
「総帥。あ、いえ、沙織お嬢様。」
「ふふっ、まだ随分と言い難そうね。その内に慣れるでしょうけれど。」
「すみません……。」


青い空も、青い海も、日本のものとは違う。
海と陸の境界にそびえる崖に沿って並ぶ、白い壁と青い屋根の町並みも。
ギリシャの美しい景色は、ツアーに参加した日本人達の心を捉え、魅了して惹き付けた。
彼女達は、うっとりと羨望の溜息を吐き、それから目が覚めたように賞賛の声を上げている。


「思い切ったツアーを考案したものですね。しかも、それを企画倒れにしてしまわないところが、貴女の凄いところですわ。」
「それもこれも沙織お嬢様が了承してくださらなければ、実現は不可能でした。本当に感謝しています。」


アレックスの今回の仕事、沙織から頼まれていたギリシャ旅行のツアー企画。
最後の仕事となった企画に、アレックスは全力を注いだ。
ギリシャの素晴らしいところを全て見せたい、見てもらいたい。
そう思って立案した企画は、だが、望むものが高過ぎたせいか、その金額も破格のものとなってしまった。
どんな魅力的なツアーでも、これでは人は集まらない。
そこでアレックスが思い至った策が、『グラード財団の総帥と行く、女性限定の超豪華ギリシャツアー』だったのだ。
彼女の狙いは見事に当たり、高額ツアーにも関わらず多数集まった希望者の中から、厳正なる審査の上で、今回のツアー参加者を決定し、今に至っている。


「お嬢様を、このような場に引っ張り出してしまい、申し訳ありません。」
「いいえ、私も楽しんでいるのです。久し振りの息抜きにもなりましたから。」
「でも、危険だってあったでしょうに……。」
「平気ですよ。お付きの者の内、二人は女聖闘士です。仮面を着けていないから分からないでしょうが、私の身は彼女達がしっかりと守ってくれています。」


沙織の傍らに控えていた女性が、コクリと一つ頷いた。
それに、観光客を装った男性が数名、遠巻きにコチラを窺っている。
何か不穏な動きがあれば、直ぐに沙織を守れる距離で、聖闘士達が警護しているのだ。


「アレックスさんはココでお別れね。この旅行、楽しめましたか?」
「はい。最後の仕事は、とても良い思い出になりました。」


沙織がチラと送った視線の先には、他の聖闘士達と同じように、遠巻きに彼女達の様子を見守るアフロディーテの姿があった。
自ら企画した旅に同行していたアレックスは、このサントリーニ島を最後に、ツアーから離れる事になっている。
そして、この後は、彼と共に聖域へと足を踏み入れるのだ。
これまでの全てを捨てて、新たな世界へと。


「さぁ、お行きなさい。あちらでアフロディーテが首を長くして待っていますよ。」
「本当に、本当にお世話になりました。」
「どうぞお気になさらず。では、また後日、聖域でお会いしましょう、アレックスさん。」
「はい。」


ツアー客達の輪の中へ戻っていく沙織の華奢な後ろ姿を眺め、アレックスは大きく息を吐いた。
そして、目の前に広がる絵画のようなギリシャの景色を、もう一度、仰ぎ見た。


「……アレックス。」
「ロディ。待ち切れずに来ちゃったの?」
「そうさ。キミはいつでも私を焦らしてばかりだからね。」
「貴方の辛抱が弱いのよ。ね、いつも不機嫌な魚座さん。」


彼が不機嫌になるのは、深く愛されている証拠。
それさえ分かっていれば、それさえ忘れなければ、彼と共に過ごす事に何ら不安も感じない。
ちょっとした事で直ぐに不機嫌になってしまう、この美しくて可愛い人を、彼女もまた強く深く愛しているのだから。


優しく穏やかな風が、頬を掠めて空へと上っていく。
二人はどちらからともなく手を繋ぎ、聖域へと向かう道を、ゆっくりと歩き出した。



不機嫌な元カレと、上機嫌な日常を



‐end‐





ここまでお付き合いいただき有り難う御座いました。
アフロちゃんは恋人に対してだけは、強引で我が儘、そして、ちょっと扱いの難しい人というイメージです。
親友や恋人のように深い間柄にならないと、自分の本質は見せないので、普段は『綺麗で優しい良い人』の印象を持たれているけれど、実際はとっても捻くれ者だと思います、彼はw
そんなアフロちゃんに振り回されたら……、というテーマでお送りしましたが、如何だったでしょうか?
年中ラブな管理人なので、また機会があれば魚座夢はチャレンジしたいです。

連載開始:2015.09.22
連載終了:2016.03.21



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