「分かっているさ。私が自分勝手な理屈を捏ねている事くらいね。」


分かっていながら、それを無理にでも貫き通そうというのか。
アレックスは言葉を返せずに、ただ黙って彼の顔を見上げる。


「ただ、これは理解して欲しい。我が儘を通して、駄々を捏ねて、屁理屈を並べて。不条理な言葉で、何とかキミの心を動かそうとしているのも、全てはキミの事を諦め切れないからだ、アレックス。再会して、思い出してしまった。胸の奥で疼いて止まらない、強い恋慕の想いを。」
「ロディ……。」


夕方から夜に変わっていく空の下、暗い色の中へと飲まれていく景色。
ぼんやりと灯り始めた街灯が、広がりつつある闇を、僅かに滲ませていく。
光の届かない路地に居る二人は、その姿の殆どを、濃さを増す闇に塗り潰されそうになっていたが、それでも、彼の強い意志を映した瞳だけは、不思議と爛々と輝いていた。


「場所を変えよう、ここじゃキミの身体も冷えてしまう。七時に予約を入れてあるんだ。個室を押さえたから、他人に話が聞こえる心配もない。」
「そう……、そうね。そうしましょう。」


アレックスは揺れる心を抱えながら、彼の後に続いて進んでいった。
路地と違って明るい大通りには、金曜の夜らしく晴れやかな顔をした人々が行き交っている。
華やかなイルミネーションに彩られた街は賑わい、擦れ違う人は皆、楽しげに笑っているようにアレックスには見えた。
だが、彼との間に会話はない。
黙ったまま、滲む街灯りの道を歩いていく。


辿り着いたのは、一・二階に飲食店が並ぶオフィスビルだった。
アレックスも何度か仕事で訪れた事がある。
一階に入居するイタリア料理店が美味しいと噂で聞いた事があったので、一度、食事に来てみたいと思ってはいたが、それは未だ実現されてはいなかった。


アフロディーテが案内したのは、二階の和食レストラン。
オフィスビルという場所柄、食事をしながらの打ち合わせに使われる事を考えてか、店の奥側は全て個室となっていた。
掘り炬燵式の和室もあったが、彼はテーブル席の個室を指定して予約していたようだった。


「実はココもグラード財団の系列店だよ。最近じゃ、飲食店部門にも力を入れているらしいね。」
「そうなの? 知らなかったわ。」


知っていたら、もっと早くに来ていたのに。
そう愚痴っぽく呟いたアレックスに対して、彼はチャーミングに微笑んでみせた。


飲食店関係には、余り大っぴらにグラード財団の名前は出さない。
その名前だけで敷居が高いと思われてしまい、客足が遠退くからだ。
彼はそれを知っていた。
実際、この店は和食店にしてはリーズナブルだった。
仰々しく畏まったところもない。
会食付きの会議などでも使い易く、ランチにも丁度良い値段設定がされている。


「メニューは?」
「あらかじめ懐石弁当を頼んでおいた。」
「懐石じゃなくて、懐石弁当なの?」
「そうだよ。懐石だと、料理が運ばれてくる度に、会話が止まってしまう。弁当なら、その心配もないからね。」


確かに、そうだ。
良く気が回ると嘆息するアレックスの向かい側で、彼は頬杖を付いて、窓の外を眺めていた。
そんな何気ない仕草も絵になる。
明るい室内でも、暗い闇空の下でも、服を身に着けていても、いなくても、彼は存在そのものが目映く輝いているようだ。
そんな考えを抱いた刹那、アレックスの脳裏には自分に覆い被さる彼の逞しい裸体が浮かび上がり、そんな事を思ってしまった自分が酷く恥ずかしくなった。
幸い、彼は窓の外を見ていて、彼女の動揺には気付いていない。
アレックスは誤魔化すように、彼と同じく窓の外へと目を向けた。





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