ドサリ。
アレックスが息を飲んだ、その一瞬の間に、彼が巧みに彼女の身体を押し倒していた。
強い力で組み敷かれ、アレックスは更に息を飲む。
暗闇の中でも爛々と光る瞳の色に射竦められ、押し戻そうとする気力すら奪われていくようだった。


「だ、駄目よ、ロディ……。これ以上は……。」
「どうして? 夜は長い。朝を迎えるには、まだたっぷりと時間がある。もう一回くらい楽しむ余裕はあるだろう。」


ニッと片方の口角が釣り上がり、その隙間から僅かながらに零れた歯が、闇の中にキラリと白く浮かび上がって見えた。
彼の怒りは、まだ治まっていない。
だからこそ、その不機嫌な気持ちに収まりが着くまで、アレックスを離す気など毛ほどもないのだろう。


「わ、私……、明日も仕事なの。これ以上の夜更かしは、仕事に障るわ。だから、もう、ね?」
「フフッ。嘘はいけないよ、アレックス。キミは明日、休みの筈だ。土日は完全休日、それがキミの勤める職場、キミの所属する部署。それを私が知らないとでも?」


そうだ、彼ならば簡単に調べ上げるだろう。
偶然に再会してから、このホテルでの約束の刻限まで、今の彼女についての情報を収集する時間は十分にあった。
もっと時間を費やせば、アレックスの私生活までも事細かに調査し、把握出来るのだろう。
グラード財団の調査能力ならば、そのくらい簡単だ。


「わ、私だけ、休日出勤なの……。急ぎの仕事があって……。」
「全く、キミって人は……。」


スウッと頬を滑ったのは、彼の冷たい唇。
そうとアレックスが気付いた時には、圧し掛かられた彼の身体の大部分が、彼女の肌に触れていた。
頬から耳へと辿る唇も、両の手首を押さえ付ける手の平も、ゾクリと震えを感じさせる程に冷たいのに、首から下の身体を押し潰して乗る身体と、下腹部に押し付けられた確かな質量は、声を失いそうになる程にジクジクと熱く、圧倒的な力強さでアレックスの全身の内側も外側も痺れさせる。


「『超』が付く程に真面目で、真っ直ぐで、そんなキミが平然と嘘なんて吐ける訳がない。自覚はあるだろう? 自分が嘘を吐けない性分だって事くらい。」
「そ、れは……。」
「キミは急ぎの仕事など持っていない。明日も明後日も完全にフリー。だから、朝まで何度、私とセックスしようと問題はない筈だ。どれだけ激しくしても、絶え間なく何度も続けても、ね。」


露骨過ぎる彼の言葉に、アレックスの身体がビクリと震える。
彼女にとって、それはこれからもう一度、いや、二度・三度と繰り返されるだろう行為に対する怯えの震えだった。
だが、一方で彼は、それを本能的な女としての期待の震えだと受け取った。
しかし、この状態では既に、その二つの境界線は曖昧で、区別などなかったのかもしれない。
怯えも期待もそのどちらも、結局は、その先に待ち受ける行為によって、歓喜の震えに繋がっていくのだから。


彼の口元の笑みが嬉しそうに深まり、容赦なく彼女の唇を奪う。
何か言いたげに開いた隙間を埋めるように、塞ぐように。


後は、ただ濁流に飲まれて、翻弄されるしかない。
一度の激しい情交を越え、疲れ果てていたアレックスにとって、抵抗する力など腕にも足にも、既に残っていなかった。
乱暴ではなくても、殊更に激しく、情熱的な愛撫の数々は、彼女に考える隙を与えずに思考を奪い、その心を押し流していく。
流され、受け入れるだけしか出来ないアレックスは、翌朝を迎えるまでの数時間で、アフロディーテの想いの深さ、その心の奥に残る傷の深さを、言葉のない情交の様々な形により、何度も何度も思い知らされたのだった。





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