これから何が起きるのか。
ハッキリと察したアレックスは、彼の腕の中でバタバタともがいた。
だが、慌てた様子で必死に手足を振り動かしても、その頑強な身体はビクともしない。
一見、女性的に見えても、隆々とした筋肉と頑丈な骨格を持つ彼には、何ら衝撃にはならないのだ。
逆に、アレックスの抵抗する動きに合わせ、より自分が動き易いように位置を変え、流れを変えて、足を進めていく。
結果、あっさりとベッドの上へ放り出されたアレックスは、息を吐く暇もなく、手足の動きを抑制された体勢で、彼に圧し掛かられてしまった。


「や、ロディ! わ、私、こんなつもりじゃ……!」
「こんなつもりじゃなかったら、どんなつもりで部屋までついてきたの? 二人きりの部屋、目の前には心を擽る夜景。こんな最高のシチュエーションで、私がそんなに紳士で我慢強いとでも思っていた?」
「そ、それは……。」
「世間知らず過ぎるよ。誘いに乗って部屋に来たのなら、こうなっても構わないという意思表示だって事、分かってなかったのかい?」


答えようと口を開いたアレックスだったが、その瞬間に唇を塞がれた。
彼女を責める言葉を紡いでいた彼の唇が、遠慮なく全力で口付けに掛かってきたのだ。
それまで忘れていた感触に、刹那、何度も繰り返した懐かしい思い出が甦ってきた。
毎朝の挨拶のキス、親愛の気持ちを籠めたキス、彼の辛辣な言葉を止めようとして仕掛けたキス、唇以外に頬や額、瞼や耳朶にも触れたキス。
そして、愛の言葉を紡ぎながら、こっくりと濃い情愛の淵に溺れる際に交わした、深く甘い口付けの数々。
夜の闇の中で抱いた温もり、一つのベッドで朝を迎えた眩しい光の中。
彼と一つになり、そして、互いの全てを結び繋げるような、甘くもほろ苦い、あの激しい口付けを……。


「んっ! ふ……、ん!」
「思い出させて上げるよ。私がどんなにキミを想っていたか。どんなにキミを愛していたか。この身体全部で、キミの身体の隅々まで満たして、ね……。」


何度も忘れようとした、あの儚くも尊い日々。
長く、それでいて短かった再会までの月日の間に、渦巻いては消え、そして、また心の奥に小さく燃えて燻る恋の熱。
幾重にも繰り返された否定と肯定の恋の残り火は、結局のところ、消す事も、拭い去る事も出来なかったのだ。
誰もが息を飲む程の容姿を持つ彼であっても。


そして、その彼によって再び、心と身体に熱い烙印を押されていく彼女にとっても同じだという事を、一つ一つ丹念に仕掛けられていく愛撫の数々が思い出させる。
深く暗い場所へと押し込んでいた想い、キツく蓋をして二度と開けないと決め込んでいた想いを、ジワジワと緩め溶かして、何も覆い隠すものがない状態にまで暴いていく。
剥き出しになって向き合い接する彼と自分の本心に、アレックスはもう、抵抗など出来ないと悟った。
後はただ、流れ飲まれて沈んでいくだけ。
終わりのない深く暗い情愛の淵へと……。



***



目が覚めたのは、それからどれくらい経った頃だろうか。
ダルい身体を起き上がらせ、部屋の様子を窺ったアレックスは、自分を取り巻く真っ暗な闇に、今がまだ真夜中なのだと知る。
今夜、彼が仕掛けた愛は激しく、殊更に情熱的だった。
目が覚めた今も、骨がキシリと軋む程に身体が重い。
だが、決して不快ではなかった。
全身を柔らかに包む心地良い倦怠感に、長らく忘れていた女としての身体の喜びを思い出し、男女の愛とはこんなにも濃密に尾を引くものであったかと、頬が染まる。
それと同時に、四年前、彼と交わした様々な愛の行為が頭の中に甦ってくる。
生々しく思い出された記憶の数々に、更に身体の芯が熱くなっていくのを覚え、アレックスは本心を隠すようにシーツを引き寄せた。





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