キミとXmasH



「良かった。皆、クリスマスを楽しんだようで……。」


パソコンの前に座り、嬉しそうな声を上げたアイオロス。
アレックスはマグカップを手に、彼の背後から画面を覗き込んだ。
ゴトリ、画面を見つめたまま、マグカップをデスクに置く。
鼻孔を擽るのは、ふわり、甘く柔らかいココアの香り。


「誰からのメール?」
「ん、アテナからさ。」


折角のクリスマスなんだから、皆が楽しめれば良いのに。
そう思っていたからこそ、アテナからのメールの内容、自分以外の黄金聖闘士の皆が各々のクリスマスを楽しんでいたとの話に、アイオロスは心底、嬉しそうだった。


何だかんだ言いながらも、皆が皆、クリスマスを満喫したようじゃないか。
あの頑ななシュラでさえも、随分と弾けた(寧ろ暴走した)らしい。
アイオロスは、そうなるようにと自分から仕向けておきながらも、そこに居れなかった事に一抹の寂しささえ覚えた。


「俺も聖域でクリスマスを過ごしたかったな。」
「ホームシック? アイオロスらしくないわね。」
「そういうアレックスは、聖域が恋しくならないのか?」
「私はアイオロスがいれば、何処だって平気よ。」


寂しいと愚痴りながらも、アイオロスは皆より一足先に、日本のクリスマスを満喫したのだ。
その熱烈で強力な愛情表現に付き合わされたのだから、寂しいなどと思う余裕はアレックスにはない。
彼の情熱を受け止めるだけでも、正直、精一杯だったのだから。
アイオロスという人の恋人である事は、気力と体力、そして、強い精神力がいるのだと、アレックスは改めて思う。


「で、寂しがり屋のアイオロスは、私一人が傍にいるくらいじゃ、満足しないの? もっと沢山の女の子を侍らせて、ハーレムでも作る?」
「まさか。俺はアレックス一筋だ。他の女の子を抱く気は少しもない。」
「それはそれは光栄です、アイオロス様。」


おどけた口調でそう言って、アレックスは手にしていたマグカップから一口、ココアを啜った。
温かで甘いココアが、体内の細胞、一つ一つにまで染み込んでいくような気がする。
今年のクリスマスは聖域でも雪が舞ったようだが、それでも、ここトウキョウの寒さの比ではない。
こちらの寒さに慣れない身では、直ぐに芯から冷え切ってしまう。


「甘過ぎないか、このココア?」
「だって、寒いんですもの。このくらいで丁度良いわ。」
「この甘さなら、シオン様のキャンディーと良い勝負だ。」


アイオロスが手にしたのは、パソコンの脇に置いてあった透明な袋。
中には、淡い色をした巨大なキャンディーが三つ入っている。
赤と緑のクリスマスカラーのリボンを解き、そっと袋を傾ければ、殻付きの胡桃かと思える程の大きなそれが、キラキラガサガサした砂糖を全身に纏った姿で、ゴロリと手の平へと落ちてきた。


「まさか俺のところにまで送ってくるとは思わなかった。何しろ俺が言い出したんだからなぁ。」
「アイオロスが?」
「そ。あのキャンディー、絶対に皆、懐かしがるだろうから、クリスマスプレゼントに渡してみたら如何ですか? ってね。シオン様に提案したのさ。」


予想通りに、酷く恥ずかしがる者、素直に喜ぶ者、照れ隠しのために受け取り拒否をする者。
皆の反応は様々だったが、そのキャンディーを贈られた誰もが心の中で喜びに満ち、懐かしさを噛み締めただろう事は、目に見るより明らかだった。


「食べてみるか、アレックス?」
「そんな大きなキャンディー、私の口には入らないわ。」
「何? こんなデカいキャンディーを食べたら、俺とキスも出来なくなるから嫌?」
「そんな事、一言も言ってない。」


ふざけて笑い合いながら、彼女の腕を強く引く。
引き寄せる力に逆らわず、アレックスはアイオロスの膝の上に腰を落とした。
そのまま背後から、ギュッと抱き締めてくる力は強く、触れる肌は温かい。
こうして他愛ない事で笑いながら甘い時間を過ごせるのは、恋人同士の特権。
聖域の皆も、このクリスマスを機会に、同じような時間を過ごせるようになれば良い。
辛い戦いの日々を共に乗り越えてきたからこそ、同じだけの幸せと喜びを願って止まないのだ。


さて、自分が送ったグリーティングカードに、一体、どんな返事が来るのか?
一人一人の顔を思い浮かべながら、アイツはこんな言葉を返すに違いないと想像する時間も、また楽しいひと時だった。



小さなカードに籠めた喜び



メリークリスマス、聖域の皆!
沢山の喜びと、溢れる幸せが、皆の心を満たしますように!



‐end‐





ロス兄さんだけ恋人連れで日本のクリスマスを満喫したとかいうw
これにてクリスマスお題は終了です。
皆様、良いクリスマスを!

2013.12.25



- 9/9 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -