キミとXmasG



「痛っ……。」


軽くタンコブの出来た頭頂部を撫で擦りながら、シュラは顔を深く顰めた。
先刻、アテナ神殿へと急ぐ道すがら、何処からか飛んできた固い雪玉が、頭にクリーンヒットしたのだ。
気を張っていれば簡単に避けられたのに、クリスマスの浮かれモードに少し油断し過ぎた。


「全く……。誰だ、あんなものを投げたのは。」
「間違いなく聖闘士だろうね。あんなサラサラで直ぐ溶けてしまうような雪を、あれだけシッカリ固めようと思うなら、多少なりとも小宇宙を燃やさないと出来ないだろう。」
「となりゃ、青銅か白銀のガキか。或いは、ガキと変わンねぇミロ辺りってトコか……。」


渋面のままグラスのワインを煽るシュラに、傍にいたデスマスクとアフロディーテは苦笑を浮かべるしかない。
元が頑なな悪友が、クリスマスだからと気持ち砕けた雰囲気になったというのに、これでまた強面な顰めっ面の彼に逆戻りだ。
これでは折角のクリスマスパーティーも、無礼講で楽しむどころか、険悪な雰囲気になりかねない。


「こうなったら、もうアレしかないね。」
「そうだな、アレしかねぇ。」


アレ、つまりは『女』。
シュラの意中の女官を傍に侍らせて、閉ざした彼の心を解そうというもの。
といった訳で、デスマスクの手によって、理由も聞かされずに引き擦られてきたアレックスは、そのまま強引にシュラの隣に押し遣られた。
よろけながら腕に掴まってきたアレックスに、当然、シュラはギョッとする。
一方のアレックスは、驚きで真ん丸になった瞳で、シュラを見上げた。


「ど、どうした、アレックス?」
「いえ、あの……。あ、シュラ様、グラスが空のようですので、私がお注ぎします。」
「あ、あぁ、すまんな。」


アレックスは慌てて近くのテーブルに乗っていたワイン瓶を引っ掴み、シュラのグラスに注いだ。
トクトクと嵩(カサ)が増す度に波打つロゼワインの表面が、会場の灯りを反射して、ピンク色に煌めいているのが、何とも言えず綺麗だった。
二人共に言葉もなく、注がれていくワインを見つめる。


「シュラ様、どうしました?」
「ん、あぁ。不意にシェリーが飲みたくなってな……。」
「向こうに用意されているかもしれません。見てきますか?」
「いや、良いんだ。部屋に戻ればある。」


今、シェリーを飲みたいのではない。
こうして騒がしいパーティーの席ではなく、誰もいない部屋で、静かにグラスを傾けたい。
その時には、アレックスが横に居てくれれば申し分ない、そう思ったのだ。
二人でシェリーを飲み交わしながら、目が合えば言葉もなく甘い雰囲気になり、そのままソファーに沈んでいく二つの身体……。
ゴクリ、シュラの喉が隆起する。


「……アレックスは、恋人はいないのか?」
「な、何ですか、いきなり?」
「気になっただけだ。それだけ器量が良ければ、クリスマスの誘いも数多だろう?」
「……残念ながら、今夜は寂しい夜になりそうです。」


俯きポツリと呟く彼女は、惨めそうに小さく身を縮めた。
驚くシュラ。
皆、諦めているのだろうか?
まさかアレックスにクリスマスを共に過ごす相手がいないとは、夢にも思っていないのだろう。
ならば、自分にも、まだチャンスはある。
寧ろ、今のこの好機を逃せば、もうアレックスを誘うチャンスは得られないかもしれない。
キラリ、輝くシュラの目が狩人のものに変わった。


「見ろ。シュラのスイッチが入ったみてぇだぜ。」
「本当だ。これでシュラもクリスマスを楽しめるだろうね。」


そんな彼を見て、悪友二人が何やら囁き合っている事も露知らず、シュラはアレックスの横にピタリと寄り添って並んだ。
その距離、ゼロセンチ。
隙間なく腕と腕が触れ合う。


「あ、あの……、シュラ様?」
「ん、どうした?」


ギョッとして、慌てて距離を取るアレックス。
だが、シュラはシレッとした顔で、また同じように距離を詰め、横に並ぶ。
まるで追い駆けっこのように離れては寄り添い、離れては寄り添いを繰り返している二人。
華やぐパーティーの喧騒の中、二人の遣り取りに気付いている者は、悪友コンビを除くと、誰一人いない。
訳が分からないままシュラに追い駆けられ、しかも、距離を詰める度に、肩や腰に腕が回されてくるなど、スキンシップの度合いが増していくのも気になる。


「し、シュラ様。あの、もういい加減に――。」
「ヤドリギ、だな。」
「え?」


アレックスの苛立ちを余所に、何故か上を見上げたシュラ。
地味な追い駆けっこをしながら、いつの間にか二人が辿り着いていた窓辺には、ヤドリギが飾られていた。
シュラは、それをジッと見上げていたのだ。


「ヤドリギの下に立った乙女には、キスをして良い。そうだったな?」
「ま、まさか、シュラさ――、んんっ!」


シュラの大胆な行動に、会場の喧騒がピタリと止む。
無理に抱き込む黄金聖闘士と、必死にもがく女官。
皆の視線を集める中で、シュラは熱烈な口付けで、アレックスの唇を奪っていた。


「アイツ……。ヤドリギの下のキスってのは、普通、頬に軽く程度じゃねぇのか?」
「ま、良いんじゃない? ヤドリギの花言葉は『征服』だっていうし。シュラも目一杯、楽しんでるみたいだしね。」


ニヤリと笑う悪友と、クスッと微笑む悪友が、目を細めて見守る中で。
シュラの贈る熱いキスは、未だ止まない。



その唇を奪う、ヤドリギの下で



‐end‐





山羊さまだけチューがあるのは、エコ贔屓しているからですw

2013.12.24


→???


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