誘惑カジノ



シュラと私は飲み仲間だ。
お酒の趣味が合うという事もあるけれど、飲み方というか、飲むペースや飲む量なども近い事から、二人で杯を交わすのが心地良く、いつも一緒に飲んでいる。
場所は大抵、磨羯宮。
お酒の肴は、他愛無い会話。
今日の出来事や、お天気、美味しいレストランのお料理、聖闘士候補生達の面白エピソードから、稀に、ちょっとした政治や経済の話まで。
でも、話が深くなると面倒臭がって、どうでも良いと投げ出してしまうのも、シュラの性格。


この日は、これといって話題にするような出来事もなく、デスマスクに借りた映画を眺めながら、シュラの作ったサングリアをチビチビと飲んでいた。
だけど、正直言って、これの何が面白いのか全く分からない内容の映画だったせいもあり、二人揃って早々に飽きてしまった。
テレビから流れる退屈な『音』と化した台詞を右から左へと聞き流し、私はゴロンとラグの上に寝転がった。
そのままの体勢で見上げれば、ソファーにドッカリと腰掛け、大きな欠伸を漏らすシュラの姿が見えた。


「暇……、だね。」
「あぁ、そうだな。」
「この映画、止めて良い?」
「好きにしろ。」


ラグの上をモソモソと這って、リモコンの置かれたテーブルに手を伸ばして。
ピッと映画を止めると、また、そのままゴロリ。
途端にシンと静まり返った部屋に、シュラが手にしたグラスの中で揺れる氷の音が、カランと響く。


「凄い格好だな、アレックス。幾らなんでも寛ぎ過ぎだろう。」
「勝手知ったるシュラの部屋。何処もかしこも私の足跡だらけですから。」
「アレックスと言えど、知らない場所もある。」


何処よ、それ?
そんな場所なんて、あった?
身体を起き上がらせ、首を傾げてシュラを見れば、返ってくるのはデスマスクみたいなニヤリ笑顔。


「俺の寝室だ。」
「そりゃあ、そうでしょ。そこはシュラのプライベートな空間だもの。」
「まるで興味なしか。アレックスが望むなら、俺のベッドだって自由に使えるぞ。」
「もう。そんな馬鹿な事を言ってないで、何か暇潰しになるものないの?」


少しの乗り気も見えない私の様子に、シュラは肩を竦めて、溜息まで吐いて、少しダルそうに腰を上げた。
面白いかどうかは分からんがと、そう前置きして彼が持ってきたのは、一組のトランプ。
ポーカーでもする気かと思えば、シュラはブラックジャックが良いと言う。


「賭けでもすれば、少しは面白くなるだろう。」
「賭け? 何を?」
「肩揉みとか、一品料理を作るとかな。」


本当にそんな程度で楽しくなるものだろうか。
疑問に思いながらも始めたブラックジャックは、何だかんだで徐々にヒートアップしていく不思議。
まずはお酒のおつまみ作り。
それから肩揉み、耳掻き、頬にキスと要求が上がってきて、時間的には次が最終ゲーム。


「さて、賭けの内容は?」
「そうだな……。俺が勝ったら、アレックスがココに一泊するってのは、どうだ?」
「……はい?」


何を言っちゃっているんですか、シュラさん?
さっきの寝室の話を、ここで蒸し返すなんて。
いやいや、焦らずとも、私が勝てば良いだけの事。
そう思いながら、気合を入れて、いざ勝負!


手札は『4』と『6』。
一枚引くと、今度は『Q』。
これで合計は二十。
もう一枚引いて失敗するより、冒険はせずに、ここでストップする。


親のシュラの手札、見えているのは『J』だ。
伏せている、もう一枚は何だろう。
ドキドキしながら、そのカードをジッと見つめる。


「悪いな、アレックス。」
「……え?」


ひらりと軽やかに捲られたカードは『A』。
合計は二十一。
という事は……。


「ブラックジャック。俺の勝ちだな。」
「嘘……。」


何度見ても、目を擦っても、変わらない絵札。
意地悪く光るスペードの『A』。
信じられない気持ちで目の前のシュラに視線を移すと、彼は先程にも増して口角の上がった笑みを、ニヤリと右の口の端に浮かべた。
色んな意味を含んだその笑みは、目が眩む程にセクシーで、これまで飲んだ分だけ、頭がクラクラとしてくる。


「さて、まずはシャワーでも浴びて、酔いを醒ますか。なぁ、アレックス?」
「う、えっと、その……。」


獰猛な肉食山羊さんに捕まって、逃げ場はない。
今夜はお泊り決定……、って事なの?



甘い誘惑
賭け事は程々に



‐end‐





『甘い誘惑』リメイク版、第6弾は山羊さまです。
EROセクシー大全開で勝負を仕掛ける山羊さま、不正はしませんが、百パーセント勝てる自信があった模様w
この後、賭けに負けた代償を、朝まで払わされるんでしょうね、きっと。

加筆修正:2015.07.30

→next.(クールに熱血なあの人)


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