「アイオロス、何をぼんやりとしている?」
「あぁ。シュラ、か……。」


十三年間というもの、住まう者の誰一人いなかった人馬宮のプライベートルームの中は、当たり前に荒れ果てていた。
その真ん中で、何をして良いのやら、何から手を付けるべきなのか、それすら分からずに呆然と座り込んでいたアイオロスの元へ、誰よりも早く訪ねてきたのは、一つ上の宮から下りてきたシュラだった。
宮も隣である上、何かと色々あった事で引け目を感じているというのもあるし、心配になって様子を見に来てくれたのだろう。
真面目なシュラらしい。
持つべきものは仲間だななどと、人馬宮の惨状を目の当たりにしても表情一つ変えないシュラの顔を見ながら、アイオロスは思った。


だが、シュラが一人ではない事に、僅かに遅れて気付く。
それもその筈、その人物はシュラの大きな背中に隠れるように、彼の背後に付き従っていたのだ。
真っ白な女官服を身に着けているところを見るに、磨羯宮付きの女官だろうか?
それとも、シュラの恋人だろうか?
寧ろ、その両方?


身体にピッタリと沿ったマーメイドラインの純白の女官服と、緩やかにウェーブの掛かったブラウンの髪を左側で束ねて垂らしたスタイルは、楚々とした印象を与え、数多いる女官の中でも珍しい清楚な雰囲気。
如何にもシュラが好みそうな清純派の女性だな、そう思いながら、アイオロス自身も彼女から眼が離せない。
美しくありながら、内側から滲み出る可憐さを失わない彼女の姿に、思わず見惚れてしまっていたのだが、直ぐにその事に気付き、そっと視線を外す。
人の恋人をそんなにジロジロと見ていては失礼だろうとの配慮だったが、本当のところは、もっと彼女を見ていたい気持ちが強かった。


「……兄さん。あぁ、やっぱり、こんな事だろうと思った。まだ全然、手を付けていないのだな。」
「やっぱり、か。全くもって、何をどうして良いのやらサッパリ分からないんだ。情けない事にな。」


そこに、少し遅れてアイオリアが姿を現した。
両手には何やら巨大な鞄を幾つも抱え、背中にも何か背負っている。


「何だ、リア? その荷物は? 旅行にでも行くつもりなのか?」
「旅行って……。バカを言うなよ、兄さん。今はそんな事してる場合じゃないだろう。これは兄さんへ必要なものをアレコレと、俺の宮から持ってきたんだ。ほら、コッチが衣類。コッチが生活必需品。」
「流石はアイオリア。いや、アイオリアの気の利く従者といったところだな。良かったじゃないか、アイオロス。」
「この服、下着も……。これは新品か?」
「当たり前だよ、兄さん。流石の俺でも、履き古しのパンツなど持ってはこないぞ。これで、色々と揃えるまでは何とかもつだろう?」


どうやらアイオロスの天然疑惑は本物であるらしい。
昔は自分達も幼くて、尊敬の気持ちばかりが強かった彼に対し、『天然』だなどと疑う余地はなかったのだが。
今、冗談のような事を真顔で言ってのけたアイオロスを目の当たりにして、シュラとアイオリアは顔を見合わせて溜息を吐いた。
これは、暫くは自分達が足繁く通って世話を焼いてやらねば、マトモな生活すら出来ないのではないかという嫌な予感が、ヒシヒシと現実味を帯びてくる。





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