12.きっかけの朝



慣れない身体のダルさを覚え、アイオロスは目を覚ました。
一体、どのくらいの時が経ったのだろう。
そう思って辺りを見回せば、部屋は淡い朱色にぼんやりと霞んでいた。
流石に夕焼けではないだろう、幾ら疲れていたとはいえ、丸一日も眠っていられるとは思えない。
とすれば、この薄闇は朝日によるもの。
眠ったのが夜になる少し前だったのだから、それでも十時間以上は眠った事になる。


「疲れていたとはいえ、寝過ぎだな。」


そう一人ごちて、アイオロスは腕の中のアシュを見下ろした。
未だ目覚める気配もなく、スヤスヤと心地良さ気に眠るアシュ。
自分の部屋とは違う場所、慣れないベッドで、よくもこんなに長時間、寝ていられるものだ。
一体、どれだけの時間、サガの手伝いをしていたのかは分からないが、余程、疲れていたのだろう。
だが、規則正しく日々を過ごしているアイオロスにしてみれば、このような不規則な時間に、無理な長時間睡眠は、返って身体に負担を掛けるだけだった。
だからこそ、途中で身体がダルくなって、目が覚めてしまったのだ。


アイオロスはアシュの白く狭い額に口付けをひとつ落とすと、スルリとベッドから抜け出した。
眠る彼女はそのままに、服を身に着け、部屋を出る。
早朝の教皇宮、元より静かな廊下は、より一層、静けさが深まっているように感じられる。
足音を立てないように意識していても、コツコツと小さな音が、廊下の向こう側まで響いていく中、アイオロスは真っ直ぐに歩を進めた。


「失礼します。」


黄金聖闘士専用の執務室。
日中であれば教皇と、その補佐であるサガと自分、そして、執務当番に当たっている黄金聖闘士が交代で事務仕事をしている部屋だが、今はまだ早朝。
誰もいない可能性が高いと思いながらも、一言、声を掛けてから入室する。
だが、アイオロスの想像とは裏腹に、そこにはシュラが一人、自分のデスクに向かって書類にペンを走らせていた。


「アイオロスか? どうした、こんな時間に?」
「お前こそ。何をしているんだ、シュラ?」
「報告書だ。一度、休んでしまっては書くのが嫌になるからな。先にやってしまった方が、ゆっくりと休める。」
「そうか、俺と同じか。という事は、シュラは任務明けか?」
「少し前に戻ってきたところだ。」


そうかと一言、笑顔で言うと、アイオロスはシュラの横のデスクに着いた。
自分も、早めに仕上げてしまわなければならない報告書がある。
所定の様式にペンを走らせながら、ふと窓の外を見た。


早朝という事を差し引いても、昨日とは比べ物にならないくらい穏やかな朝だ。
昨日の朝、アイオロスが任務から帰還してきた時には、教皇宮の中は行き交う文官や女官達で溢れ、サガやアシュまでも血眼になって仕事をしていた。
あの喧騒が嘘のような静けさ。
アイオロスは未だスヤスヤと眠っているアシュを思い浮かべ、小さな笑みを浮かべた。





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